2019年3月25日10時0分に産経新聞westから、下記趣旨の記事がネット配信されていた。
昨年9月、台風21号による高潮や強風で甚大な被害を受けた関西国際空港。
対岸との連絡橋にタンカーが衝突し、空港利用者らを運ぶ鉄道も連絡橋を走っていたため不通となったが、2週間という早さで復旧を成し遂げた。
復旧現場を指揮したJR西日本近畿統括本部の田淵施設課長は、「海外からの旅行者であふれる関空の姿は、技術者としてこの上ない喜び」と振り返った。
【「想像を絶する」被害】
関空連絡橋は、全長3750mの世界最長のトラス橋だ。
トラスとは、鋼材を三角形になるように接合した骨組みでつくられた構造を指し、関空連絡橋は全6車線の道路の下、トラスの中を鉄道が駆ける。
昨年9月4日昼、台風21号による強風で流されたタンカーが連絡橋に衝突。
道路部分の橋桁は大きく破損して最大4mずれ、鉄道部分に覆いかぶさった。
「1週間は泊まり込みになるな」。
映像を目にした田淵さんは、こう覚悟したという。
翌5日朝、現場の「想像を絶する状況」に圧倒された。
道路部分の橋桁が架線を支えるビームや欄干など構造物を破壊し、鉄道部分の橋桁も最大50cm動いていた。
大阪・泉州沖に浮かぶ人工島の関空にとって、鉄道は1日平均6万人もの人員を運ぶ輸送の要だ。
田淵さんは「空港機能を復活させるには、鉄道を早期復旧しなければ」と考えた。
【できることを】
初めに掲げた復旧見込みは1カ月だが、「何も経験がない現場に、おおまかな工程しか出せなかった」。
すべては手探りの状態から始まった。
大きくずれた橋桁は、道路部分が撤去されるまで手がつけられない。
「撤去までにできることをできるだけ進める」。
多くの作業を並行して迅速に行うことが求められた。
道路も線路も走れる軌陸両用車、クレーン車を手配し、復旧資材の運搬態勢を整えた。
橋桁、レール、構造物などと、それぞれの復旧作業の現場に知識を持つ専門家を招集し、それぞれの判断で工程を進めた。
そんな中、朗報もあった。
鉄道部分の橋桁は安全に問題のある損傷はなく、元の位置に戻せば使えると判明したのだ。
一方、現場は橋だけではなかった。
高潮で浸水した関空島では、一部の線路が水没。たまった海水は3万5000m3。
配備していたポンプでは太刀打ちできなかった。
途方に暮れるなか、冠水した滑走路の排水作業に、近畿地方整備局が大容量ポンプ車10台を派遣していたことを聞きつけた。
支援を要請すると、うち2台が8日から、水没した線路の排水作業に回り、2日間で完了した。
【英知を結集、早期復旧】
道路部分の橋桁がクレーンで撤去されたのが、14日午後2時ごろ。
ここから鉄道復旧の工事が本格的にスタートした。
この時の復旧見込みは、空港が全面再開する21日に繰り上がっていた。
「現場がボトムアップで次々と最善の判断をしてくれた」おかげだった。
道路桁撤去の約1時間後に、鉄道桁の最終の安全確認が完了する。
復旧の最大の山場となったのが、道路桁に押される形で約50cmずれた鉄道桁をスライドさせて元に戻す作業だ。
最初はクレーンでつり上げて戻す方法が検討されたが、ジャッキで持ち上げて水平移動させることになった。
だが、準備を進めるなかで、線路の砂利が落ちないように、橋桁の間が溶接されていることが判明。
初めは、この状態でもジャッキアップで動かせるという考えだったが、現場作業に当たる作業員から、溶接部を一度、切り離すことが提案され、これを採用。
田淵さんは、「一見、遠回りのようで、確実に時間短縮できた」と強調した。
鉄道桁の移動は慎重、かつ迅速に行われた。
完了したのは14日午後9時ごろ。
道路桁の撤去から、約7時間しかたっていなかった。
さまざまな判断の積み重ねから、開通まではさらに3日短縮され、2週間という当初の見込みの半分で鉄道復旧を実現させた。
田淵さんは、「一つでも判断を迷ったりしたら、無理だった」と振り返り、「みんなの英知が結集できた。関空を復活させるという気持ちが一つになったからこそだ」と力を込めた。
◇
【用語解説】関西国際空港の台風21号による被害
平成30年9月4日昼、日本列島を縦断した台風21号による高潮高波で、A滑走路と第1ターミナル、国際貨物エリアが浸水した。
強風でタンカーが流され、対岸とつなぐ連絡橋と衝突した。
午後1時38分、関空で最大瞬間風速58.1mを記録していた。
関空島内には約7800人(うち旅行者約3000人)が留め置かれたが、破損がなかった道路上り線にバスを通し、5日午後11時までに空港外への輸送を完了した。
急ピッチで復旧を進め、7日の国内線の一部再開から、21日には全面再開を果たした。
出典
『関空の鉄道、台風被害から異例のスピード復旧 1カ月が2週間』
https://www.sankei.com/west/news/190325/wst1903250001-n1.html
(ブログ者コメント)
連絡橋へのタンカー衝突事故は、本ブログでも紹介スミ。
また、通信ケーブル復旧時の奮闘状況も紹介している。
(2019年3月11日掲載)
『2019年3月4日報道 昨年起きた台風21号時の関空連絡橋タンカー衝突事故後、NTT西の協力会社社員30人が休憩や食事の時間も惜しみ超特急で通信ケーブルを復旧していた』
http://anzendaiichi.blog.shinobi.jp/Entry/9431/
その間、ずっと奥歯に挟まっていたのは、他社の事故情報がほとんど耳に入ってこなかったことです。
そこで退職を機に、有り余る時間を有効に使うべく、全国各地でどのような事故が起きているか本ブログで情報提供することにしました。
また同時に、安全に関する最近の情報なども提供することにしました。