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                                                       本ブログでは、産業現場などで最近起きた事故、過去に起きた事故のフォロー報道などの情報を提供しています。  それは、そういった情報が皆さんの職場の安全を考える上でのヒントにでもなればと考えているからであり、また、明日は我が身と気を引き締めることで事故防止が図れるかもしれない・・・・そのように思っているからです。  本ブログは、都度の閲覧以外、ラフな事例データーベースとして使っていただくことも可能です。        一方、安全担当者は環境も担当していることが多いと思いますので、あわせて環境問題に関する情報も提供するようにしています。       (旧タイトル;産業安全と事故防止について考える)
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201610131540分に読売新聞から、下記趣旨の寄稿文?がネット配信されていた。

長文につき、抜粋して紹介する。

 

乗客1人が立った状態のまま、全日空機が駐機場から滑走路へ向かって移動を開始――

福岡空港で9月30日、定員超過のままで飛行機が始動するミスが発生した。

駐機場を出た直後に発覚し、飛行こそしなかったが、立ったままの搭乗客がいる状態で離陸する、前代未聞のミスにつながりかねない事態だった。

 

複数回のチェックが行われる飛行機の搭乗手続きで、なぜこうしたミスは防げなかったのか?

ヒューマン・エラーに詳しい中田亨氏が分析する。

 

 

〈全日空機で起きた定員超過の経緯〉

 

別々の席を予約していた父親と息子が、同じバーコードを使って搭乗手続きをしようとした。

父子は、別々のバーコードで搭乗手続きをする必要があったが、息子が誤って父親の席のバーコードをスマートフォンにダウンロード。

保安検査場と搭乗口のそれぞれで、同じ人物が2度通過したとされる「再通過」の警告メッセージが出たが、係員は何度も機器にタッチしたためと勘違い。

1枚の搭乗券で父子2人が乗り、もう1人分は搭乗手続きが行われていない状態となった。

 

父子2人の乗客が「1人搭乗、1人空席」とされたため、席が1つ余ったように認識された。

余った席はキャンセル待ちの人に提供されたが、実際には父子は2人とも搭乗しているため、当然、機内で席が足りなくなった。

 

飛行機で、乗っている客と名簿との勘定が合わなかったら大変だ。

ハイジャック犯が紛れ込んでいるかもしれないから、離陸を取りやめ、いったん全員を下ろすしかない。

 

とはいえ、飛行機の乗客管理というものは、四角四面にやっているだけではダメで、融通を利かさなければならない。

どうしても飛行機に乗らなければならない急用がある人のためには、航空会社が呼びかけて、正規の乗客が席を譲るという習慣もある。

 

ただし、これは出発間際で行うデータ変更であるから、管理を難しくするリスクである。

運航上の管理だけを考えるなら、出発直前の乗客変更は断った方がよい。


しかし、このリスクを引き受けねば、公共交通機関の名折れである。

世のため人のために、あえて便宜をはかり、難しい管理を引き受けているからこそ、たまにミスが起こるとも言えるのだ。

もちろん、ミスは迷惑なことだが、考えた上でリスクテイクしている。

その心意気は評価してあげたい。

 

今回の一件を見るに、「システムについての認識のズレ」という、典型的な事故の元凶がうかがえる。

 

乗客のバーコードを照合するチャンスは、保安検査場と搭乗口との2つの場面である。

そのどちらでも、システムは「このバーコードが通ったのは2回目だ」とか「座席が重複している」と、警告メッセージを出したという。

 

しかし、係員は「バーコードのかざし方が悪くてダブルカウントされただけで、本当は大丈夫」と勘違いして、父子2人を通してしまった。

こうしたミスを避けるには、システムが「このバーコードは20秒前にも見ました。その時の映像はこれです。2度かざしではありません」などと、時間間隔や場面の状況について教えられればよかったのである。

 

システム開発者は「ちょっとやそっとでは、バーコードをダブルカウントできないように作ってある」と思っているのかもしれない。

その性能が周知されていれば、システムもここまでくどくど言わなくてもいいだろう。

 

しかし、係員は「2度かざしのダブルカウントがありえる」と思っていた。

システムの性能について、認識のズレがあったのだ。

このズレこそが、今回ミスが起きた第1の要因と言える。

 

これは、我々の日常生活でもよくある話だ。

例えば、パソコンでファイルを「完全消去」すると、データは永久に消滅したと思って当たり前である。

しかし多くの場合、データは残っていて復元することが可能だ。

 

道具の作り手と使い手との間には、道具の認識についてのズレが必ずあり、そこから事故は起きる。

 

事態が勝手にスイスイと進むことは、多くの場合、ろくなコトにならない。

空席があればキャンセルと判断され、キャンセル待ちの人に割り当てる。この一連の流れは効率的で当たり前ように見えるが、実はかなりリスキーである。

 

大病院で各病室に薬を配る作業を考えよう。

全室に配り終わったはずなのに、かごの中に何か薬が残っていたとしたら、直ちに全館放送を入れねばならない。

勘定が合わないということは、薬を配り間違えている可能性がある。

つまり、投薬ミス寸前の状態である。

 

大空港の搭乗口は、あまり正確に仕事が進む場とは思えない。

大きな荷物を抱えた乗客が我先にと押しかける場所だ。

ある人はバーコードを印刷した紙で通過し、別の人はICカードをかざす。慣れない機械にとまどう高齢者もいれば、持ち込み禁止の手荷物を乗務員に預ける若者もいる。そして、ようやくゲートを通り抜けていく。

これは、実に不安定な作業なのだ。

 

こうした作業の結果、たとえ空席を発見したからといって、即座にキャンセル待ちに再利用という早手回しは危なっかしい。数え間違えをしている可能性は捨てきれない。

 

搭乗口の確認作業が整然と進めば、この問題のリスクはかなり解決される。

素早いゲート通過は、時間の節約となるから、航空会社としても切望しているところである。

 

設計工学の世界には、「一石二鳥は諸悪の根源」と考える学派がある。一つの部品に複数の役目を負わせると、事故はそこから始まることが多いのだ。

 

今回の場合、飛行機の座席が「一人二役」を背負わされている。飛行中に座るものとしての役目と、乗客を数えるための道具としての役目である。

今回は機内で席が足りなくなったから、おかしいぞと気がついたのである。つまり、座席を使って客数を数えたのだ。

 

乗客を数えるための役目は、搭乗口手前の待合室にある椅子に背負わせるべきだ。椅子が機内のレイアウトで並べてあり、乗客は自分の席に相当する椅子で待つというふうにする。


こうすれば、搭乗口が開く前から、どこの席が空席なのか見て取れる。ダブルブッキングもすぐ分かる。

空港の搭乗口の周りはそんなにスペースがないから、この案の実現は難しいかもしれない。

しかし、並ばずにスムーズに乗れ、すぐ飛び立つ飛行機は、乗客にとっても航空会社にとってもありがたく、多少の投資をしても引き合うのではないかと思う。

 

これは、ゲートを守る係員にも優れた作業環境を与えることにつながる。


現在のような乱雑な状況では、ヒューマン・エラーは起こって当たり前だ。「ヒューマン・エラーがこのトラブルの原因だ」と責めることすらナンセンスだと思う。

作業環境が悪ければ、いくら人間が頑張ったとしても限界がある。

 

出典

なぜ全日空は定員オーバーで飛ぼうとしたのか? 産総研 知識情報研究チーム長 中田亨

http://www.yomiuri.co.jp/fukayomi/ichiran/20161013-OYT8T50049.html?page_no=1 

 

 

 

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化学関係の工場で約20年、安全基準の制定、安全活動の推進、事故原因の究明と再発防止策立案などを担当しました。
その間、ずっと奥歯に挟まっていたのは、他社の事故情報がほとんど耳に入ってこなかったことです。
そこで退職を機に、有り余る時間を有効に使うべく、全国各地でどのような事故が起きているか本ブログで情報提供することにしました。
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