2021年9月5日9時0分にYAHOOニュース(ベストカー)から下記趣旨の記事が、7枚のイラスト付きでネット配信されていた。
「もし自車が水に浸かったら、そしてそれが海水だったら、決して自分で動かそうとせず、すぐに消防署へ連絡すること」という鉄則がある。
エンジンが水に浸かった車両は、再びエンジンを始動しようとすると深刻なダメージを起こす可能性があり、さらに海水の場合は発火、つまり車両火災が発生する可能性があるからだ。
以下、東日本大震災の際に被災地で活動し、多くの車両火災に直面した著者が、そのメカニズムと対処法を解説します。
■海水に車体が浸かると炎上する可能性がある
筆者が東日本大震災の夜に目にしたのは、避難する被災者を乗せた自動車が海水に浸かり次々と炎上していく一面の火の海であった。
陸上自衛隊の災害派遣部隊として担当地域である久慈市に到着した21時少し前のことである。
翌日、夜明けとともに行動を開始し、車内で生きながらにして焼かれたご遺体の収容にあたった。
自動車が海水に浸かると炎上することは、2018年の台風21号により兵庫県の神戸港や尼崎西宮芦屋港にて発生した約20件の車両火災や、西宮市の人工島にある自動車のオークション会場が冠水して保管していた中古車など計約190台が炎上したことでも注目されている。
図「海水に車体が浸かると自動車は炎上するおそれがある」のとおり、淡水は電気を通さないが、海水は電気を通すため、普通の自動車がバッテリーの端子位置まで海水に浸かった場合、車体が炎上するおそれがある。
図「車体の電子回路の短絡による炎上」のとおり、電気を通す海水に車体の電気系統が浸かることで、本来の電流が流れているべき電気回路以外の場所で、2点が相対的に低いインピーダンス(電圧と電流の比)で電気的に接続される状態、日本語で「ショート」と略される現象が発生し、流れてはならない場所に電流が流れてしまうため、電子機器が誤動作を起こしたり、設計値を超える大電流が流れた異常発熱による半導体、抵抗器、コンデンサなどの電子部品の破損や高温による発火、発煙による有毒ガスの発生などが起きる。
情報機器の場合はデータ消失のおそれもある。
走行用モーターに電力を供給する大電力バッテリーを搭載したハイブリッド車や電気自動車には、ショートした瞬間にブレーカーを落としてシャットダウンする安全機構が設けられているが、普通の自動車にはそうした安全策が講じられていないことが多い。
バッテリーメーカーもバッテリーを海水に浸けるなどの試験は行っているし、自動車メーカーも塩水路での走行試験や融雪剤への耐性試験なども行ってはいる。
しかし、それぞれの試験では「安全」であっても、バッテリーが車体の電子回路に接続され通電している状態で、電気を通しやすい海水に浸かると炎上しやすいことは事実であり、過信してはならない。
「ショート」は、地震などの避難後の家屋で生じる「通電火災」の原因の一つでもある。
筆者も札幌の真駒内駐屯地にて勤務していた時期、米軍進駐時代に建てた教会が老朽化により傾き、鉄骨が配線を切断したことによる火災現場に遭遇したことある。
氷点下の真冬であったため、ショートが発生した鉄骨付近が焼けた程度であったが、地震などで避難する際は電気のブレーカーを必ず落とすことを心掛けるべきだ。
塩害によるショートの問題は住居の電気設備でも問題となっている。
一般的に海岸から2kmの範囲にある電気設備には塩害対策が施されているが、気候変動により毎年のように訪れる、以前よりも強度を増した台風は、塩害対策を施している地域よりも内陸にまで海水を飛ばすようになり、その電気設備に塩の結晶が付着している様子が報道されるようになった。
自動車にも住居にも、気候などの変化に合わせた新たな対策が求められるようになっている。
■炎上し始めた車両からの救出法
図の「車両火災の一時的鎮静化方法」にあるように、乗用車で主に出火する場所はエンジンルームか燃料タンクの上にあるトランクルームである。
内部で火災が発生しているボンネットやトランクを、決して開けはならない。
図「燃焼の3要素」のように、火は酸素と温度と可燃物が揃うことで燃え続ける。
密閉された空間での火災では酸素が不足し不完全燃焼によって火の勢いが衰え、可燃性の一酸化炭素ガスが溜まった状態になる。
この状態で窓やドアを開くなどにより、密閉空間に急速に外気が入ると、熱された一酸化炭素に酸素が結合する二酸化炭素への化学反応が急激に進み爆発(爆燃)を引き起こす"backdraft"現象が発生するおそれがあるためだ。
エンジンルーム内の火災を完全に消火することはできないが、車内に取り残された乗員を救出するための時間の余裕を獲得できる程度に火勢を弱めることはできる。
手順は「孔を開けて密閉空間に消火剤を噴射する」だ。
エンジンルームの場合はエンジンを取り囲むようにボンネットに4カ所孔を開け、その孔に消火器のノズルを差し込み、車体の下から消火剤が出るまで充分に噴射する。
ボンネットに孔を開けるのは通常、フーリガンツールと呼ばれる破壊工具が使用されるが、ツルハシでも同じことができる。
沿岸部の車両には片手で扱えて分解できるツルハシを車内に備えておくことが望ましい。
破壊工具のスパイクを用いてボンネットに孔を開けるが、静音設計の乗用車ではボンネットの裏側に内張りが施してあることがあるので、消火剤がボンネットの裏側と内張りの間に噴射されることの無いように、確実にボンネットを貫通させることが重要だ。
消火器を使用する時は、消火剤がエンジンルームの下から噴出しているかを確認する。
トランクルーム内の火災はテールランプを破壊すれば、配線を通す穴などが設けられているので、そこに消火器のノズルを差し込む。
火は、酸素と温度と可燃物が揃うことで燃え続ける。
図「燃焼の3要素」のように、自動車内に燃料が残っている場合は可燃物として気化した燃料が存在しており、火災により熱せられた車体の温度も高い。
この方法は、ボンネットやトランクを開けずに消火剤を入れることで酸素が欠乏している状態を維持しているに過ぎないため、完全に消火することは難しく、再び火の勢いが強まるおそれがある。
乗員を救出する時間稼ぎのために、一時的に火を弱めるための方法であると認識すべきだ。
■熱傷について救急隊には「手のひら何個分か」と口の周りについて伝える
熱傷(やけど)は、皮膚の表面が赤くなる程度であれば日焼けと変わりないが、"水ぶくれや変色している部分"の面積が体表面全体に占める面積の10%以上に及ぶ場合は、直ちに病院で治療を受けなければならない。
熱傷面積を算出する方法として、成人では「9の法則」がよく知られる。
しかし、小児では「5の法則」になったりと、記憶の維持や実際の計算は専門職以外は難しい。
そこで、手掌法(しゅしょうほう)という、本人の手のひらの面積が、体表面面積のおおよそ1%に相当することを憶えておく。
傷病者自身の手のひらを基準に、素早く熱傷面積を割り出す。
救急隊には「手のひら何個分」と伝えればよい。
手掌法は誤差が男性で20%、女性で30%あるが、火災現場では厳密さよりもスピードを重視し、手のひら10個分以上の面積に水ぶくれや変色がある場合は危険と判断する。
火災現場は危険であること、他にも傷病者が発生していることを忘れてはならない。
図「皮膚構造と熱傷深度区分」のように、熱傷は、その深さによってI~III度まで3段階に分類されている。
熱傷の深さは「温度×熱の作用した時間」で決まる。
高温ではなくても、長時間接触していると熱傷になる。
いわゆる「低温やけど」だ。
長い間歩いているうちに足にできる水ぶくれも、靴と足の間に起きる長時間の摩擦熱によるものだ。
車内でも、トランスミッションの真上など、低温やけどになりやすい場所があるので注意する。
■重症度の判断
体表面の熱傷面積に関わらず、顔面や口の周りが焼けている場合は、気道熱傷のおそれがある。
かすれ声や息苦しさなどがないか観察する。
熱い空気を吸い込み気道が腫れてしまうと、空気の通り道が塞がり呼吸できなくなってしまうため、一刻を争う。
手、足の関節部分、股間の熱傷にも注意する。
関節部分の熱傷が原因で、後に動きが悪くなり生活に影響することがある(野口英世の左手)。
股間の熱傷は排尿困難、排便困難などの後遺症を残すおそれがあるため、早い段階からの適切な治療が必要だ。
衣服の下に熱傷を負っている場合は、すぐに脱がせず、まず水をかけて冷やした後に、衣服を脱がせるか切り取る。
衣服が皮膚に貼り付いている場合は、はがさずに、そのままの状態にする。
熱傷部位には原則として、軟膏や消毒薬を用いず、に病院へと運ぶ。
これらを用いて熱傷部位が変色すると、先述の重症度を正確に判定できなくなるからだ。
時間が経つにつれ腫れてくるので、指輪や腕時計、ベルトなどは早期に外しておく。
III度熱傷では、皮膚が白や茶色に変色し、場合によっては炭のようになる。
III度熱傷では痛覚神経も損傷しており、本人が痛みを感じていないこともある。
◆水ぶくれ、
変色の熱傷範囲が10%(手のひら10個分)程度の場合 水道水や湧き水など清潔な流水があれば、熱傷を負った直後に、患部を流水で30分以上、または痛みがとれるまで冷却を続ける(流水には患部を洗浄する効果もある)。
傷口からの感染のおそれがあるため、川の水などは避けること。
同様に、感染予防のため、水ぶくれを潰してはならない。
清潔な流水が無い場合は、熱傷部位をペットボトルなどの飲料水で洗い、清潔なガーゼで余分な水分を拭き取ったのち、清潔なビニール素材(食品用ラップフィルムや食品パッケージの内側、保温用レスキューシートなど)で熱傷部位を覆い、その上から濡らしたタオルを当てるなど、気化熱により冷却を続ける。
ガーゼなどの水分を吸収する素材を患部に、直接、当ててはならない。
患部に貼り付いて、はがれにくくなるからだ。
水ぶくれ、変色の熱傷範囲が20%(手のひら20個分)以上の場合 致命的である。
冷却は、低体温と感染に注意しながら行う。
清潔な流水がある場合は、冷却を2分以内にとどめ、全身の保温を行う。
熱傷部位を清潔なビニール素材で覆った上から清潔なシーツで傷病者を包み、その上から毛布やレスキューシートなどで保温する。
◆熱傷で失われた水分の補給
傷病者自身が座って飲み物を摂れる場合のみ、温かい飲み物を飲ませる。
寝ながら飲むと誤嚥をおこし、肺に入ったり、吐き出すおそれがあるからだ。
「熱中症を防げ!!調子が悪くなったら飲むのは水よりオレンジジュース」で述べたように、ORS「経口補水液」を用意できるのであれば、熱傷で失われた水分補給を、水の25倍のスピードで行うことができる。
筆者:照井資規
東日本大震災(2011年3月11日)発災時、陸上自衛隊の医療職の幹部である「衛生官」であり、岩手駐屯地、第9戦車大隊の医療部隊の隊長である衛生小隊長であったため、発災直後に出動した災害派遣時にて津波災害に被災した自動車の様相を数多く目にした。
その翌年、ITLS (International Trauma Life Support) 国際標準外傷救護初療教育プログラムAccess (交通事故救出救助研修)インストラクターとなる。
本記事はその内容に準拠している。
https://news.yahoo.co.jp/articles/f54d7160f83c0e163ee43056e5d21dbf02c42808
その間、ずっと奥歯に挟まっていたのは、他社の事故情報がほとんど耳に入ってこなかったことです。
そこで退職を機に、有り余る時間を有効に使うべく、全国各地でどのような事故が起きているか本ブログで情報提供することにしました。
また同時に、安全に関する最近の情報なども提供することにしました。