2019年3月13日13時0分に朝日新聞から、下記趣旨の記事が解説図付きでネット配信されていた。
大地震に見舞われた後、今いる建物は安全か。
余震には耐えられるのか――。
地震大国の日本で繰り返し問題になる、被災した建物の診断技術の開発が進んでいる。
速やかな判定は、住民の避難の判断や、いち早い復旧に役立つ。
東日本大震災が起きた8年前の3月11日。
東京大学地震研究所の楠(くすのき)浩一教授(建築構造)は、当時勤めていた横浜国立大(横浜市)の研究棟で大きな揺れに見舞われた。
建物は鉄筋鉄骨コンクリート造りの8階建て。
耐震改修済みとはいえ、強い揺れにたまらず、学生らと外に飛び出した。
揺れがおさまると、建物に置いていた「あの装置」の判定記録を確かめた。
「建物は損傷しているが、同じ大きさの余震が起きても倒壊しない」。
記録から、すぐに建物の状態を読み取れた。
落ち着いてから調べると、建物はわずかなひびが入った程度で、装置の判定結果と実際の被害はよく合っていた。
この装置は、大きな地震の後、建物が安全かどうかを瞬時に判定するシステムだ。
楠さんたちのチームが開発した。
仕組みはこうだ。
建物に取り付けた加速度計で、地震の揺れの強さを表す「加速度」を測る。
この情報を、別の「評価装置」にネット回線を通じて送り、建物がどれくらいずれたかを計算ではじき出す。
評価装置には、建築基準法に基づく建物の構造情報のデータを入力してある。
次に同じ強さの余震が来た場合、倒壊する恐れがあるかどうかを瞬時に判定する。
地震直後に、「倒壊する・危険」、「倒壊しない・安全」、「損傷なし」という3段階の評価結果が、指定したアドレスにメールで送られてくる。
建物に置くのは、加速度計とLAN(ラン)回線などでつないだ評価装置だけ。
国の研究機関などが観測に使う加速度計は1台100万円以上するが、楠さんたちの装置はセットで8万円ほど。
数学的手法を採り入れて精度を高めることで、ノイズの影響を受けやすい弱点を克服した。
楠さんは、「将来的には5万円程度を目指し、多くの人が使いやすいようにしたい」と話す。
地震後に停電が起きた場合にも使えるシステム作りも進めている。
現在、システムの導入先は東大地震研を含む国内外の大学や展示場の住宅、長崎市の軍艦島など約40カ所に広がっている。
【自動見極め判定システムに期待】
大きな地震があった直後、建物が安全かどうかは、現状では目視で判定している。
建築士の資格を持つ人らが調べる「応急危険度判定」だ。
判定士が建物を見て回り、「危険」、「要注意」、「調査済」の3色のステッカーを貼って注意を促す。
これを目安に、住民は避難したり、店舗はすぐに営業できるかを決めたりする。
ただ、被災が広範囲に及んだ場合は人手が足りず、調査がなかなか進まない。
1995年の阪神淡路大震災では、家屋の安全確認が遅れ、避難所が住民であふれかえったという。
2016年の熊本地震でも、同様の問題があった。
被災した建物の状態を自動で見極める判定システムは、こうした問題を解決する手段として期待されている。
防災科学技術研究所(茨城県つくば市)などは、17年度、近い将来起きるとされる首都直下地震に備え、様々なデータを防災や被災後に生かす産官学のプロジェクトを始めた。
テーマの一つに、建物の判定システムの仕組みづくりが採用された。
楠さんもメンバーに加わる。
責任者の一人、早稲田大の西谷章教授(スマート構造技術)は、「加速度計の設置位置や設置個数、地震による建物のずれを測る方法などは、まだ精査が必要」という。
西谷教授らは大手ゼネコンと共同で、加速度計を使わずに判定する技術の開発も進めている。
特に迅速な判断が求められる病院や避難所、被害を受けやすい木造住宅などを対象に、最適なシステム作りを目指すという。
【防災を「錦の御旗」に情報共有】
判定システムには課題もある。
「独自に加速度計を備えている建物はけっこう多い。でも、それを使わせてもらうのが難しい」。
2月末、都内で開かれた成果報告会で、プロジェクトを統括する平田直(なおし)・東京大教授(観測地震学)は指摘した。
判定システムは、最終的には地域での広域利用を目指している。
地震後に個々の建物の被害を一括して共有できれば、地域全体に広がる被害の全体像を効率よく把握できる。
こうした情報は、患者の搬送や避難所の設営、物資の配送など、さまざまな場面で役立つと期待される。
しかし、防災や研究のために大学や研究機関などが設置している加速度計とは異なり、民間企業などが設置した機器のデータは、必ずしも共有できるとは限らない。
官民で集めたデータの活用が、今後の取り組みの目標だ。
平田さんは、「防災を『錦の御旗』にして情報共有を進め、新しい価値を生み出したい」と話した。
◇
〈応急危険度判定〉
地震発生直後に、建物の倒壊などによる二次災害を防ぐため、自治体に登録された判定士が、建物の安全度を判定する。
被災者が公的支援を受ける「罹災(りさい)証明」発行のための調査とは異なり、法的根拠はない。
被災した建物を使い続けられるかどうかを見極める判断材料になる。
◇
〈建築基準法の耐震設計〉
1981年に改正された建築基準法の耐震基準では、建物の耐震設計について、震度6強クラスの揺れにも耐えるよう求めている。
建物の利用中に極めてまれに起きる大地震に対しても倒壊しないことが条件で、建物にひびや亀裂が入っても、中にいる人の命が守れるような設計が義務づけられている。
出典
『大地震、揺れたら建物大丈夫? 倒壊リスクを瞬時に判断』
https://digital.asahi.com/articles/ASM2G5R1ZM2GULBJ015.html?rm=434
その間、ずっと奥歯に挟まっていたのは、他社の事故情報がほとんど耳に入ってこなかったことです。
そこで退職を機に、有り余る時間を有効に使うべく、全国各地でどのような事故が起きているか本ブログで情報提供することにしました。
また同時に、安全に関する最近の情報なども提供することにしました。