2023年3月26日11時2分にYAHOOニュース(JB press)から、下記趣旨の記事がネット配信されていた。
緊急着陸し、脱出スライドで乗客を避難させたが、うまく着地できず重傷者1人を含む5人がけが――。
今年1月7日に爆破予告を受けて中部国際空港に緊急着陸したジェットスター・ジャパン501便の事故は記憶に新しい。
国土交通省が担当CA(客室乗務員)らに事情聴取を実施したが、そもそも、成田空港会社が爆破予告の電話を受け取ってから離陸までするまでなぜ機長に知らせなかったのか、警察への連絡がなぜ遅くなったのかなど、疑問は解消されていない。
さらに、保安要員でもあるCAの配置には課題が残ったままなのは、日本の航空各社に共通する。
航空当局や航空会社は、緊急時への対応をあらためて見直す必要がある。
【客室乗務員の対応に問題はなかったが・・・】
事故では、荷物を持ったままドアに向った乗客もいたとされており、国交省は、1月12日からジェットスターへの安全監査を実施して避難誘導の状況についても調べてきた。
最終的に当局は、CAたちは「マニュアル通りに対応していた」と、業務に問題はなかったと結論づけたが、肝心なことが分かっていない。
この緊急脱出に至ったのは、成田国際空港が爆破予告の電話を受けてから当該機が離陸するまで17分もあったのに、機長やジェットスターに連絡を入れなかったことも一因である。
いったいこの17分間に何をしていたのか。
たしかに、テロ予告が本物か偽物かどうかを判断するには時間が必要であろう。
しかし、とりあえず安全サイドに立って機長に一報を入れることは、危機管理のイロハのイであるはずだ。
その予告電話の1週間ほど前にも、台湾の航空会社が運航する便について成田空港に同様の爆破予告があり、それはいたずら電話であった。
いずれも言語が英語で発信元がドイツだったと報道されている。
ジェットスター機への予告電話があったときに、そうした情報も含め機長に伝えていれば、違った結果になっていたかもしれない。
【「90秒脱出ルール」を守るためには】
中部国際空港に緊急着陸した後、滑走路から出たすぐの誘導路上で脱出スライドを使った緊急脱出を実施し、コンクリート上の地面に身体を打ちつけるなどしてけが人を出したわけだが、全ての情報を共有していれば、機長が誘導路上ではなく駐機場でまで進み、タラップをつけて乗客を脱出させる方法をとったかもしれない。
加えて、中部空港署に当該機が緊急着陸をするという一報が入ったのは、中部国際空港に着陸するわずか5分とはいったいどういうことなのか。
当時の飛行高度から降下し、空港に進入するには20~25分かかる。
機長が中部国際空港に着陸する意思を管制官に伝えたのは降下の前になるから、20分以上も中部空港署に伝達されなかったことになる。
当局は、こうした経緯についても明らかにすべきであろう。
航空界には、どの航空機であれ、機長が緊急脱出の指示を出してから90秒以内に全乗客を機外に脱出させなければならないとする、いわゆる「90秒ルール」がある。
条件としては、全てのドアの半分を使ってとなっている。
いざ脱出開始となれば、脱出口付近のCAは乗客に向って「ベルトを外して! 荷物を持たないで! ハイヒールを脱いで!」とコールしながら、ときに脱出をためらう乗客の背中をポンと押すようにして脱出スライドに飛び乗ることを催促する。
脱出スライドと地面との間には段差があり、うまく足を伸ばして地面に立たないと危険なことにもなりかねない。
ジェットスター機の事例では、1人が尻もちをついて骨折した。
【重傷者のほとんどが硬い地面で骨折】
そのためCAは、機内から脱出スライドを滑り降りてくる乗客を援助できそうな乗客を選んで、協力を依頼することも重要な任務となっている。
このように、CAは機内で飲食などのサービスを行うほか、保安要員として重要な役割を担っていることを認識する必要がある。
5年前に運輸安全委員会は約1500件の航空事故等調査報告書を公表しているが、このうち14件が脱出スライドを使ったもので、うち13件で乗客が負傷している。
それによると、非常脱出がとられた理由は、機のオーバーラン(滑走路逸脱)といった正常な着陸ができなかった事象や、火災等の発生によるものである。
そのほとんどの事例で、脱出時に負傷者が発生している。
重傷者34名の負傷箇所をみると、胸椎、腰椎や骨盤などの骨折が27名で、全体の8割近くを占めていることが分かる。
その全てが、滑走路や誘導路、スポットといった地面の硬い場所で脱出スライドを展開したケースであった。
そして、具体的な負傷の状況の例は以下の通りである。
▽脱出スライド終端から飛び出すように着地し、腰を痛めた
▽保護者の腕から離れて地面に落下し、骨盤を骨折した
▽地上で援助してくれる人もなく、まともに腰から落ち、腰を打撲した
▽後続の乗客に前へ飛ばされ両手をついて倒れ、足首を骨折した
▽滑降時、他の乗客のスーツケースが当たり、指を骨折した
▽スピードがついたので、身体がはじき飛ばされ、手を骨折した
重傷者を性別、年齢別にみると、男女比では女性が、年齢は50歳以上が多い傾向が見られる。
【不安を口にする現場のCA】
航空会社では、脱出時のけがを防止するための注意点として、次のような注意を促している。
〇スライド手前で立ち止まらず、ジャンプしてお尻をつき
〇上体を起こして、両手を前に突き出し
〇足を肩幅に広げ、つま先を上にし
〇着地点をしっかり見ること
しかし、非常時には必ずしもこのような体勢を取れない場合があるため、脱出スライド下で援助する人が重要となる。
1月のジェットスター機の事故を受けて、現場のCAたちはテロへの恐怖とともに、脱出時の安全確保の重要性をあらためて感じている。
その1人がインタビューに答えてくれた。
「保安要員でもあるCAは、日本では約98%が女性ですが、欧米航空会社のように男性が3~4割いてもいいのではないでしょうか。
私たちは訓練所で緊急脱出の要領をくり返し教育、訓練されていますが、航空会社によっては、そもそも非常口にCAが配置されていないドアがあり、これではお客様に援助をお願いすることもできません」
これはどういうことか。
【国交省の規定はICAOの推奨未満】
機材によっては、1人のCAが2つのドアを担当するケースがあるというである。
具体的に言うと、ANA、JALで使用されているボーイング787には8つのドアがあるのに、乗務するCAが6名ないしは7名の編成になっていることがある。
ほかにも、ボーイング737を運航するエア・ドゥ、エアバスA320や同321を運航するANA、ジェットスター、スターフライヤーで、CAの数がドアの数に満たないことがあるようだ。
国連の航空分野の組織であるICAO(国際民間航空機関)から、1ドア1名を推奨する指針が出ている。
これに対し
JALでは「指針については認識しているが、航空局が認可した条件で訓練を実施し、編成数は安全面のみならず、機材特性、サービス内容及び法的要件等を勘案して決定している」、
ANAは「国の規定になっているので、(配置見直しは)検討していない」としている。
国交省の規定では、座席50席に対しCAは1名でよいとしており、1ドア1名を推奨するICAOとは異なっている。
【障害者を脱出させる方法は決められていない】
考えるべきことは、ほかにもある。
以前の本コラム記事「小さくなる旅客機の座席は緊急脱出の妨げか? 障害者の安全対策も議論すべし」でも触れたが、現場のCAたちは、車椅子旅客をはじめとする障害者の安全に脱出についても不安も抱えている。
搭乗する障害者の数は年々増加しているが、実は、CAたちがどのようにして脱出口まで誘導して、安全に機外に脱出させるかの手順は何も決められていない。
定められているのは、機材ごとに搭乗できる障害者の最大人数と座席の位置である。
それらは、緊急脱出時に他の乗客の脱出の妨げにならないことを目的としていて、CAの配置数から計算されたものではない。
とりわけ、付き添い人のいない障害者の脱出には、CAの援助も不可欠の場合もあろう。
しかし、何事も不幸な事故が起きてから初めて検討に乗り出す現在の国や企業の現状を改め、前もって対策を講ずる必要がある。
車椅子旅客の数は羽田空港を参考にすると、2022年は1カ月平均102件だった。
何かあったらどのように機外に脱出させるか決めておくことは、喫緊の課題である。
それは当事者のみならず、保安要員であるCAたちの不安を解消させるものでなくてはならない。
https://news.yahoo.co.jp/articles/5dc0d572b04940549a3082975944c72a21bc803a
(ブログ者コメント)
1月7日のトラブルは本ブログでも紹介スミ。
2023年1月21日掲載
『[昔] 2023年1月7日 爆破予告を受けた旅客機からの脱出時、1人重傷4人軽傷、シューター下で補助する人はおらず、手荷物を持ったまま、あるいはハイヒールで脱出した乗客もいた(修1)』
https://anzendaiichi.blog.shinobi.jp/Entry/12993/
その間、ずっと奥歯に挟まっていたのは、他社の事故情報がほとんど耳に入ってこなかったことです。
そこで退職を機に、有り余る時間を有効に使うべく、全国各地でどのような事故が起きているか本ブログで情報提供することにしました。
また同時に、安全に関する最近の情報なども提供することにしました。