2022年12月26日7時3分にYAHOOニュース(現代ビジネス)から、下記趣旨の記事がネット配信されていた。
※冒頭は講談社の編集者から装丁デザイナーへの業務依頼内容などにつき
転載省略。
・・・
(装幀依頼書を取り出す)。
「本のイメージは、こんな感じです。
ゲラもお渡ししますが、少しだけ概要を説明させてください。
2008年に千葉県犬吠埼(いぬぼうさき)から350キロメートルほど離れた海上で「第58寿和丸(すわまる)」という全長40メートルぐらいの中型の漁船が突然転覆・沈没し、乗組員のうち17名が死亡・行方不明となる大きな事故がありました。
ところが、『なぜ沈んだのか』がほとんど解明されておらず、いまも謎のままなんです」
「? どういうことでしょう?」
「はい。まず、事故当日の海況ですが、多少の波はあったものの、警戒が必要なほどではありませんでした。
そのため、船が転覆する寸前まで、乗船者のほとんどが休息中で、のんびりベッドで休んでいたりしたんです。
つまり、まったく深刻な状況ではなかったわけです。
しかも、(海上の碇泊では)もっとも安全とされているパラシュートのようなアンカー(錨)を使って碇泊していた。
そもそも、数キロ離れたところには、一緒に漁に出ていた僚船もいました。
それなのになぜか、この第58寿和丸だけが、突然転覆して沈んでしまったんです」
「たしかに不思議ですね。
でも、なんで事故前の詳しい状況がそこまでわかっているんですか?」
「実は、3人だけ生存・帰還された方がいます。
彼らの証言では、『それまで静かだった船が突然二度の衝撃を受け、あっという間に大きく傾いた』と。
その後、わずか1~2分で船は転覆し、そのはずみで甲板に逃げていた彼らも船から投げ出されます。
この人たちは、船から漏れ出たと思われる重油で黒く染まった海を必死になって漂いながらも、なんとか助かることができました。
この「黒く染まった海」というのが実は大きなポイントです。
なぜかというと、事故後に国土交通省の運輸安全委員会が公表した「事故調査報告書」では、「転覆・沈没の原因は大きな波の可能性が高い」、そして「船から漏れ出たとされる油の量は一斗缶1缶程度(よって、船が損傷した可能性は低い)」とされているからです。
一斗缶程度の少量の油が広大な海に流れたところで、周辺の海が黒く染まるわけがない。
つまり、この報告書は生還者の証言をほとんど採用しておらず、二度にわたる船の衝撃も『波によるものだった』、大きな波が船に流れこんで船がバランスを崩して転覆、沈んだという、そんなことあるのかな、みたいなことを主張しているわけです。
一方、生還者や関係者の方は、船が“何か”にぶつかって破損して沈没、船倉にあった燃料タンクから大量に重油が漏れ出たのではないかと考えている。
だとしたら、”何か”ってナニ? という話です。
つまりですね、船が沈没した原因も謎なんですが、運輸安全委員会がなんでそんな報告書を出したのかも謎めいているんです。
ちなみに、沈没した海域は深さ5000メートル以上の深海なので、今日までいっさい現物の船に関する現場の調査は行われていません。」
「なるほど。それで、この装幀依頼書に「ミステリーの要素」と書いてあるわけですね」
「はい。この事件の不思議・謎めいた感じを表紙で表すことができないかと考え、ノンフィクションではありますが、ミステリーのようなイメージの表紙をお願いしたいのです。
ミステリーといっても、推理小説とは違いますけど、すべて実話だけに、独特の迫力があります。
著者は、ある証言や出来事をきっかけに、ぶつかって船を沈めた”何か”、つまり「真犯人」を特定できないかと取材を重ねていきます。
そして、その物語と並行する形で、生還された方々の苦しみや、残されたご遺族たちの今も癒されない思い、そして船会社の社長の孤独な闘いなど、事故に関わった人々のドラマも展開していきます。」
「わかりました。私のほうでもゲラを読んで、それからラフのイメージを何点か出してみますね」
「ありがとうございます。それではよろしくお願いいたします」
・・・
以降、装丁に関する詳細打ち合わせなど(転載省略)。
https://news.yahoo.co.jp/articles/bfd742d58b566245f365e38e9bae799e49c2be3d
同じ日、12月26日8時1分にYAHOOニュース(東洋経済オンライン)からは、更に詳細な下記趣旨の記事がネット配信されていた。
北海道・知床半島沿岸を行く観光船「KAZU Ⅰ(カズワン)」の沈没事故から8カ月になる。
乗員2人と旅客18人が死亡し、旅客6人の行方は今もわかっていない。
痛ましい観光船の事故に関し、国の運輸安全委員会は12月15日、事故原因をほぼ特定できたとして「経過報告」を公表した。
迅速で的確な調査といえるが、実は沈没事故に関する過去の調査には、たくさんの「?」がついたままのものがある。
17人もの死者・行方不明者を出した2008年の漁船沈没がそれだ。
これをめぐっては、運輸安全委員会の隠蔽体質を問う訴訟も東京地裁で続いている。
・・・
運輸安全委員会の事故調査は、犠牲者の数や船の種類によって“ランク付け”とも“格差”とも受け取れる状態になっていることをご存じだろうか。
運輸安全委員会事務局組織規則をひもとくと、第9条には次のように記されている。
国のいう「重大な船舶事故等」とは、何を指すのかという定義付けだ。
第九条 国土交通省組織令第二百四十三条の八第一号の国土交通省令で定める重大な船舶事故等は、次の各号のいずれかに該当するものとする。
一 旅客のうちに、死亡者若しくは行方不明者又は二人以上の重傷者を生じたもの
二 五人以上の死亡者又は行方不明者が発生したもの
三 国際航海(一国の港と他の国の港との間の航海をいう。)に従事する船舶(総トン数五百トン未満の物の運送をする事業の用に供する船舶及び全ての漁船を除く。)に係る船舶事故であって、当該船舶が全損となったもの又は死亡者若しくは行方不明者が発生したもの
(四以降、略)
死者・行方不明者に着目してこれらの条文を読むと、旅客の場合、死者・行方不明者が1人でも生じるか、または2人以上の重傷者が出ると、重大な船舶事故に該当する(第一項)。
日本と外国を結ぶような国際航路の場合も、死者・行方不明者が1人でも出ると、「重大」になる。
ただし、国際的に運用されていても、漁船の場合は該当しない。
問題は漁船である。
法律を読み慣れた方は、すぐにピンと来るだろう。
漁船が該当するのは「第二項」しかないが、「五人以上の死亡者又は行方不明者」が出ないと、漁船の場合は「重大」にはならないと読み取れる。
人命に軽重はないはずなのに、なぜこんな“格差”が明文化されているのだろうか。
ほとんどの人は記憶していないと思われるが、2008年6月に千葉県の犬吠埼沖で起きた漁船「第58寿和丸」の転覆・沈没事故と比較してみたい。
【「原則1年」を大幅に超過、内容も疑問符だらけ】
事故が起きたのは、ちょうどお昼時だった。
安全で安定性も高いパラシュート・アンカーを使って洋上で碇泊中、突然の2度の衝撃を受け、たった1~2分で転覆。
1時間ほどで沈没した。
乗組員20人のうち、17人が死亡・行方不明。
3人が助かったのは、奇跡といってよかった。
この事故について、運輸安全委員会は法の求める「原則1年」という期限を大幅に超過し、最終の調査報告を出すまでに、なんと3年近くを費やしている。
国会で明らかになったところによると、調査費用は200万円足らず。
船体引き揚げに巨費を投じたKAZU Ⅰのケースとは大きな差がある。
しかも、第58寿和丸報告書の内容は疑問符だらけだったという。
生存者の証言と報告書の描く状況がまったくといっていいほど一致しないうえ、現場海域を真っ黒に染めていた大量の油について、合理的な回答も示せていないというのだ。
船主や生存者たちは、今現在も、
「調査結果にはまったく納得できない」
「原因は波とされたが、あの状況下で波によって転覆し、あんな短時間で沈没するはずがない」
といった疑念を持ち続けている。
「漁師だから軽く見られ、まともな調査をしてもらえなかったのではないか」という声もある。
ただし、この事故を記憶している人はほとんどいないと思う。
発生直後は大きなニュースになったとしても、そもそも漁船の事故は、すぐに報道の量が減っていく。
事故原因についても、「原因は波」と国が結論付けてしまえば、それに疑問を投げかけるメディアはない。
【生存者の証言と報告書は完全に矛盾】
そんな中、第58寿和丸の事故に注目し、3年以上の年月をかけて地道に取材し続けてきたジャーナリストがいる。
東京在住の伊澤理江氏だ。
生存者や船主はもちろん、運輸安全委員会の関係者、船舶や気象などの専門家・研究者を丹念に訪ね歩いた執念の取材は、先ごろ、調査報道ノンフィクション『黒い海 船は突然、深海に消えた』(講談社)として刊行された。
その取材の過程で、伊澤氏は運輸安全委員会の事故調査という“迷路”に翻弄されることになる。
第58寿和丸の事故は2008年6月に発生し、調査報告書は2011年4月に公表された。
先述したように3年近くもの年月を要したうえ、東日本大震災の直後とあって、まったくといっていいほどニュースにならなかった。
伊澤氏によると、報告書の最大の矛盾は「大量の油」である。
事故後、現場海域には生存者や僚船の乗組員らが「真っ黒だった」と表現するほどの油が浮遊していた。
第58寿和丸から漏れ出た燃料のA重油である。
生存者は油の海を泳ぎ、全身が真っ黒になった。
誰かを引っ張り上げようとすると、ヌルヌルで滑って手をつかめない。
伊澤氏は次のように言う。
「生存者らは、ドロドロの油の海を泳いで、命からがら助かりました。
ところが、運輸安全委員会が出した結論は、漏れた油は約15~23リットルだったというのです。
一斗缶1個分です。
そんな少量では、『真っ黒い油の海』は出現しません。
そもそも、1~2分で転覆し、沈没した場合、証言にあるような大量の油は流出しません。
船体が損傷しない限りは」
「真っ黒な油の海。
生存者らが口をそろえる、その状況は、運輸安全委員会の報告書と完全に矛盾しています。
しかも、報告書の言うとおりの量だと、生存者が体験した状況は、どうしてもつくり出せません。
油防除で日本屈指の専門家は『運輸安全委員会の報告書は「kl」の「k」がミスで抜けてるんじゃないの?』とまで言っています。
それほど不合理な報告書なのです」
・・・
伊澤氏は「何らかの外力とは何だったか」を徹底追究していく。
千葉県沖の太平洋に氷山はない。
種々の状況からクジラなどの海洋生物の可能性はほぼゼロ……。
各分野の専門家らへの取材を続け、可能性を1つずつ潰していく。
そうしたプロセスを経てたどり着いた結論は、波による転覆事故ではなく、“事件の可能性がある”というものだった。
・・・
【叡智を集めたはずの結論でも間違いはある】
第58寿和丸の報告書をめぐる情報公開は、現在、非開示を不当として、伊澤氏側が国(運輸安全委員会)を相手取って開示するよう東京地裁に訴えている。
提訴は昨年7月。
国側は依然として、「真っ黒に塗った公文書でOKなのだ」という方針を崩さず、そのまま押し切ろうとしているが、裁判長は国側に再三、非開示の根拠を具体的に示すよう求めており、文書のタイトルすら秘密にしようとする運輸安全委員会の姿勢は、さすがに法廷では通用しないだろうと思われる。
伊澤氏はこう言う。
「私たちはしばしば、物事を『国が結論を出したから』、『もう決まったことでしょう』と捉えがちです。
しかし、当たり前のことですが、専門家の叡智を集めたはずの結論であっても、間違いや納得のいかないことはある。
そして、『決まったこと』に対して疑問を持ったり、声を出したりする人を疎ましいと思いがち。
そこをどうするか、だと思います。
私が著書『黒い海』で問いたかったのも、まさにその点です。
第58寿和丸の事故に関しては、声は埋もれがちですが、疑問を持ち続ける人は何人もいる。
そういった問題はほかにもたくさんあるでしょう。
そこにこそ、ジャーナリストの活動の領域はあるはずです」
https://news.yahoo.co.jp/articles/1f2b4b773bcc27178225c728b0543302bebe6fbb
12月29日7時2分にYAHOOニュース(現代ビジネス)からは、報道陣の非常識な行動など、下記趣旨の記事がネット配信されていた。(内容は転載省略)
『「何を言っているんだ、こいつは…」転覆した漁船の仲間を懸命に捜す漁協幹部に、民放在京キー局の記者が放った「非常識すぎる一言」』
https://news.yahoo.co.jp/articles/3b930e6bbbdfe71a13b71ae6bc71296af47fce4b
2023年1月1日7時2分にYAHOOニュース(現代ビジネス)じゃらは、最初はドスーンという衝撃、7~8秒後には構造物が破損したような、より強い衝撃があったなど、下記趣旨の記事がネット配信されていた。
『原因は、絶対に「波のせいじゃない」…漁船転覆事件の「謎」と深まる「疑惑」』
https://news.yahoo.co.jp/articles/5a2826a8c820961043c11b43dd79603b5d96cfc9
(ブログ者コメント)
この報道に接し思い出したのが、昨年起きた潜水艦「そうりゅう」の事故。
本ブログでも紹介しているが、訓練浮上中に確認不足で貨物船に衝突した、あの事故だ。
まさか、どこかの国の潜水艦が急浮上して事故を起こした?
「黒い海」は読んでいないが、そんな可能性もゼロではなさそうな気がした。
その間、ずっと奥歯に挟まっていたのは、他社の事故情報がほとんど耳に入ってこなかったことです。
そこで退職を機に、有り余る時間を有効に使うべく、全国各地でどのような事故が起きているか本ブログで情報提供することにしました。
また同時に、安全に関する最近の情報なども提供することにしました。