2024年4月14日14時41分に毎日新聞から、下記趣旨の記事がネット配信されていた。
猫が壁などにお尻を向け、しっぽを立てながらスプレーのように尿を吹きかける「マーキング」が、普段の放尿以上に悪臭を放つ仕組みを、岩手大の宮崎雅雄教授(生化学)のチームが初めて解明した。
研究室で猫を飼う地道な観察が実を結んだという。
どんな試行錯誤があったのか、その軌跡に耳を傾けたい。
マーキングは猫同士のコミュニケーション手段の一つと考えられている。
しかし強いにおいをまき散らし、飼い主にとって悩みの種。
住宅街での悪臭問題も引き起こしてきた。
宮崎さんによると、マーキングがなぜ臭いのかを調べた先行研究はなく、詳しい原因は分かっていなかった。
宮崎さんや大学院生の上野山怜子さん(26)らは研究室で常時15匹ほどの猫を飼育しながら観察を重ね、マタタビへの反応について論文を多数執筆するなど、ユニークな研究で知られる。
研究チームは、まず、猫が通常、地面に用を足す際の尿と、マーキングの際に放つ「スプレー尿」の成分が異なるのではないかと疑った。
スプレー尿になる際、肛門腺分泌物に由来するにおい成分が混ざり、通常の尿より臭いのではないか、という発想だ。
ところが、通常尿とスプレー尿から揮発する成分を比較した結果、ほとんど差がないことが分かった。
それぞれのにおいを猫に嗅がせる行動実験でも、違いはなかった。
研究は振り出しに戻ったように思われた。
しかし、ここで研究チームが長年猫を観察してきた蓄積が生きた。
宮崎さんのチームはこれまで、健康な猫の尿には特有のたんぱく質が含まれ、ビーカーなど実験容器にこびりつく性質を見いだしていた。
このたんぱく質の影響で尿が壁に付着しやすくなり、強くにおう一因になっているのでは、と、今度は考えた。
仮説を裏付けるため、たんぱく質を取り除いた猫の尿を垂直に立てたガラス板に吹き付けたところ、通常の尿より付着量が少ないことが分かった。
さらに実験を重ね、猫の尿をスプレーでレンガの表面に吹き付けた場合、直接地面の土に注いだ場合との間でにおいを比較。
レンガからはにおいが漂ったのに対し、尿がしみこんだ土ではにおいを感じなかったという。
レンガに付着した尿は比較的短時間で蒸発し、におい成分が空気中に放出されたと考えられる。
また通常の尿は液体のまま土の粒子にしみ込み、においが放出されにくかったとみられる。
こうして猫の尿に含まれる特有のたんぱく質がマーキングの悪臭に関与していることを突き止めた研究チーム。
しかしこの成果、一体何に役立つのだろう。
宮崎さんは「例えばたんぱく質を分解するような洗剤があれば、有効な消臭方法となるかもしれない」と、技術開発などに期待を寄せている。
研究成果は科学誌「ジャーナル・オブ・ケミカル・エコロジー」のオンライン版で論文が公開された。
https://mainichi.jp/articles/20240413/k00/00m/040/095000c
岩手大学のHPには、コーキシンと名付けたタンパク質が尿の表面張力を低下させるため、尿が壁などに付着しやすくなるなど、下記趣旨の記事が掲載されていた。
岩手大学は、ネコがにおい付けの目的でマーキングする尿が普段の尿より悪臭を放つのは、マーキング尿と通常尿のにおい成分に違いがあるわけではなく、ネコの尿が壁などの垂直物に付着しやすくする成分を含んでいるためであり、マーキングされた場所から地面に流れ落ちる過程で薄く広がることで、におい成分が周囲に放出されやすくなるためということを解明しました。
これは岩手大学農学部宮崎雅雄教授、上野山怜子大学院生らによる研究成果です。
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ネコの尿に悪臭原因物質を作るコーキシンという尿タンパク質が大量に含まれていることは分かっていたが、今回新たに、コーキシンが尿の濡れ性を高め、垂直の壁にも尿を付着しやすくしていること、(成果3)スプレー尿は、約30㎝の高さから地面に流れ落ちる過程で尿の付着面積を広げ、広範囲からにおい成分を放出するので強力な悪臭源になるが、普段の尿は、直ちに土や砂で覆われてしまうので化学成分が土や砂の粒子に閉じ込められてしまい、悪臭源にならないこと、を明らかにしました。
・・・
スプレー尿のクサイ原因が通常尿との成分の違いでないと分かったので、視点を変えてネコ尿の濡れ性(固体に対する液体の付着しやすさ)について調べることにしました。
なぜ濡れ性に着目したかというと、実験中にネコの尿をプラスチックシリンジで移し替える作業を行っていたときに、尿がシリンジの内側に付着して残りやすいことに気になったからです。
別の研究で尿からタンパク質だけ除去した除タンパク尿を調整していたところ、シリンジの内側に尿が残る現象は見られませんでした。
宮崎らは、20年前に健康ネコの尿にはコーキシンと命名された尿の悪臭成分を作り出す反応で重要なタンパク質が大量に含まれていることを発見していました。
一般に、液体の濡れ性が高いのは、液体の表面張力(物質が表面をできるだけ小さくしようとする性質)が低いときです。
そこでネコ尿に高濃度含まれるコーキシンが、尿の表面張力を低下させることで、尿が垂直の壁にも付着しやすくなって、スプレー尿が臭くなる一因になっているという新たな仮説を立てるに至りました。
・・・
本研究では、ネコのスプレー尿がクサイ原因は、肛門嚢分泌物などから悪臭成分が混入しているわけではなく、通常尿と化学成分は同じであるが、タンパク尿依存的に液体の濡れ性が高まり、結果としてスプレーされた場所に悪臭源が残りやすく、まわりがくさくなっていることが分かりました。
特にネコのタンパク尿の原因となっているコーキシンは、悪臭成分を作り出す機能を有していることが私達の過去の研究で分かっていましたが、におい付けされた場所に悪臭成分を付着しやすくする機能も有していることが新たに分かり、哺乳動物の嗅覚コミュニケーションにおける尿中タンパク質の役割について理解が深まりました。
また、スプレー尿の悪臭問題を低減させる新たな消臭手法の考案にも役立つものと期待されます。
https://www.iwate-u.ac.jp/cat-research/2024/04/006178.html
(ブログ者コメント)
宮崎教授のマタタビ研究については、過去に本ブログでも紹介スミ。
2021年1月28日掲載
『2021年1月21日報道 岩手大の宮崎教授らによれば、猫がマタタビに反応するのはマタタビに蚊を遠ざける物質が含まれているため、一方、脳内の幸せ感応物質濃度も上昇する』
https://anzendaiichi.blog.shinobi.jp/Entry/11361/
その間、ずっと奥歯に挟まっていたのは、他社の事故情報がほとんど耳に入ってこなかったことです。
そこで退職を機に、有り余る時間を有効に使うべく、全国各地でどのような事故が起きているか本ブログで情報提供することにしました。
また同時に、安全に関する最近の情報なども提供することにしました。