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【背景に「危険の外注化」】
なぜ国会で断食闘争を行っているのかについては後段に譲るとして、産業災害事故が大きい背景をもう少し説明してみたい。
キーワードは「危険の外注化」だ。
公企業が下請け会社に仕事を丸投げし、その現場で事故が起きている。
2018年に亡くなったキム・ヨンギュン氏も、下請け会社に所属していた。
大元の韓国発電公社は、過去5年間に同社の仕事中の労働災害で亡くなった労働者33人のうち、32人が下請け会社だったと明かしている。
2016年5月28日、午後6時頃にはソウルの地下鉄2号線九宜(クイ)駅で故障したホームドアを修理していたキム某氏(19歳、韓国メディアでは金君と呼ばれる)がホームドアと列車の間に挟まれ死亡する事件が起きた。
やはり二人一組で行うべき作業を、人数不足のため一人で行っていたことが死後に明らかになった。
地下鉄2号線を管理する「ソウルメトロ」は、ソウル市傘下の公共企業だ。
いずれのケースも、犠牲となった二人が安全規則をわざと破っていた訳ではない。
共通しているのは、二人とも下請け会社に所属する非正規雇用者で、安全規則が守られるような勤務条件の下にいなかったことだ。
さらに、危険な状況を発注元たる公企業がコスト削減などを理由に、普段から何ら問題視していなかったことが分かっている。
キム・ヨンギュンさんが亡くなった現場でも過去28度、労働者たちが環境の改善を求めてきたが、費用の問題で先延ばしにされてきた。
「企業による明確な殺人だ」(産業災害犠牲者遺族)との指摘は的外れではない。
危険な作業を下請けに任せることで起きる産業災害は、現代、ハンファといった韓国屈指の財閥企業でも同様に存在する。
今や世界一の半導体企業となったサムスン電子でも、政府が認めた産業災害の死亡ケースは27件にのぼり、その数倍の死亡事例が関連市民団体に寄せられている。
今年4月には、京畿道利川(イチョン)市の物流倉庫で起きた爆発により38人が亡くなったが、同じ利川市では2008年1月に冷凍倉庫火災で40人が亡くなっている。
いずれも燃えやすいウレタン素材に火がついたことが大被害の原因だった。
ニュースに接した多くの韓国市民は「またか」と思っただろう。
災害の教訓は何も生かされていなかった。
【重大災害企業処罰法とは】
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【政界は足踏み、財界は反発】
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【全泰壱50周忌の「けじめ」】
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徐台教
ソウル在住ジャーナリスト。「ニュースタンス」編集長
群馬県生まれの在日コリアン3世。韓国・高麗大学東洋史学科卒。
1999年から延べ16年以上ソウルに住みながら、人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。
https://news.yahoo.co.jp/byline/seodaegyo/20201221-00213711/
(ブログ者コメント)
日本の労災死者数は、1970年ごろに6000人近かったものが、その後は漸減し、ここ数年は1000人弱程度にまで減っている。
韓国とは統計の取り方が違うかもしれないが、2000人前後というのは、20年ほど前の日本と同程度のレベルだ。
『図1 労働災害による死傷者数、死亡者数 (1965年~2018年)』
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/timeseries/html/g0801.html
ただ、韓国の人口は約5000万人と、日本の半分程度。
そのことを考えると、40年ほど前の日本と同程度のレベルだという見方もできるかもしれない。
その間、ずっと奥歯に挟まっていたのは、他社の事故情報がほとんど耳に入ってこなかったことです。
そこで退職を機に、有り余る時間を有効に使うべく、全国各地でどのような事故が起きているか本ブログで情報提供することにしました。
また同時に、安全に関する最近の情報なども提供することにしました。