2018年6月7日20時53分にNHK大分から、下記趣旨の記事がネット配信されていた。
全国有数の温泉地の別府市で、温泉の熱を利用した「温泉発電」のための開発が相次いで進められる中、市は、温泉資源を保護するため、掘削を回避すべきエリアを指定できるなどとした条例の改正案を、近く議会に提出することになった。
これは、別府市の長野市長が7日、会見で明らかにした。
温泉の熱を利用した「温泉発電」については、県の許可が下りれば開発を進めることができるが、条例の改正案では、市が温泉資源を保護するため、発電に向けた地中の掘削を回避すべきエリアを独自に指定できるとしている。
そのうえで、発電事業者がエリア内で掘削を希望する場合、近くの源泉に影響を及ぼさないかを事前に調査したり、事業計画を市に提出したりすることを求めている。
市によると、この数年、市内で温泉発電に向けた掘削工事が相次ぐ一方で、一昨年度の市の調査では、40か所の源泉のうちおよそ7割に当たる27か所で、30年前に比べて熱量が減少していることが確認されたという。
このため市の審議会が、鶴見岳や伽藍岳に近いエリアで掘削が進むと、市内の温泉全体に悪影響が出るおそれがあるとして、掘削を回避すべき地域を指定するよう答申していた。
市では、条例の改正案を今月14日に開会する議会に提出する予定。
長野市長は、「別府の将来のため、今やらなければならないという危険水域に達しているので、しっかりと取り組んでいきたい」と話している。
出典
『温泉発電の掘削回避エリア指定へ』
https://www3.nhk.or.jp/lnews/oita/20180607/5070000802.html
6月7日付で日経ビジネスからも、下記趣旨の詳しい記事がネット配信されていた。
固定価格買取制度(FIT)が生んだ太陽光発電バブルは、バイオマス発電、小型風力、そして温泉発電へと飛び火している。
温泉地が不安を募らせるなか、日本一の泉源数と湧出量を誇る別府市が動いた。
同市が6月議会に提案する条例改正案は、FITによる開発ラッシュに一石を投じるものだ。
「今回の条例改正は、日本を代表する温泉資源がある別府市からのメッセージ。一言に温泉といっても、泉質や文化的な背景、観光業への影響は様々。これを契機に、価値の高い温泉資源をいかに保護し、後世に引き継ぐのかを考えてほしい」。
大分県別府市の猪又副市長は語る。
温泉の定義は、源泉温度が25℃以上、または19の特定成分のうち1つ以上が規定濃度を超えていること。
火山国である日本は、深く掘り進めれば、どこでも温泉が出るといっても過言ではない。
ただ、温泉の質は場所によって差が大きい。
そこかしこで蒸気が立ち上り、源泉の温度が高く、特定成分が多数含まれる別府は、いわば五つ星だ。
別府の主産業が観光であるのはもちろん、江戸時代から続く調理方法「地獄蒸し」など、市民生活との関わりも深い。
「温泉は日本の文化。MANGAと同じように、海外ではONSENと言われている。温泉発電のすべてを反対しているわけではないが、生活に密着し、観光資源として活用されている温泉を、わざわざ発電に使う必要はない。その地域にあった活用方法を考えるべき」と、猪又副市長は続ける。
猪又副市長の発言の背景には、別府市のジレンマがある。
温泉発電のために、市内で新たに温泉を掘削する事業者がいても、市は止めることができないのだ。
温泉発電は、FITの区分でいうと15000KW未満の小型の地熱発電に相当する。
いわゆる地熱発電は、地下深くに存在する熱水溜まり(貯留層)まで井戸を掘り、150℃以上の高温高圧の熱水と蒸気を取り出し、これを使って蒸気タービンを回して発電する。
一方、温泉発電は、地表近くの源泉から湧出する80℃以上の温水や蒸気を使うバイナリー発電を指す。
温泉発電は、FITにより、40円/KWh(税別)で15年間の買取が保証される。
太陽光発電の買取価格が低下する中、温泉発電の条件は、再エネ発電事業者にとって魅力的に映る。
「県外の事業者が大分県や熊本県にやってきて掘削しているが、止めるためのルールがない」(関係者)。
温泉の新規掘削の許認可は都道府県が行うため、地元自治体は指をくわえて見ているしかない。
環境省が管轄する「温泉法」には、温泉開発に制限のある「特別保護地域」などの定めがある。
だが、制定から時間が経過しているうえ、掘削を止める強制力という面でも心もとない。
そこで別府市は、“抑止力”として条例を活用する方法を考えた。
止めることができないなら、「面倒臭さ」で事業者に別府での開発を回避してもらおうという作戦だ。
【別府の温泉資源は減衰している】
別府市は2016年5月、「温泉発電等の地域共生を図る条例」を施行した。
条例は、国および県の環境アセスメントの対象外である10KW~7500KW未満の温泉発電が対象だ。
発電設備の設置前に、事前協議開始および完了の届出、周辺環境の影響調査、モニタリングの実施、事故発生時の報告義務、地元説明会の開催などを求める。
温泉発電の開発ラッシュを懸念した複数の自治体が、この時期に温泉発電を手がける事業者に向けた条例を定めた。
だが、「別府市の条例は、他の自治体に比べて手続きなどの項目が多く、事業者にとって面倒なもの。今度の条例改正では、輪をかけて面倒にする」と別府市環境課の堀・課長補佐兼環境企画室長は説明する。
実は、今回の条例改正の背景には、別府市の抜き差しならない事情がある。
条例改正に先立って30年ぶりに実施した温泉資源の調査で、市の想像をはるかに超える温泉資源の減衰が明らかになったのだ。
【アボイド・エリアという新発想】
別府市が実施した源泉調査データの結果は、別府市・温泉発電等対策審議会で精査し、分析・評価を行った。
この審議会の座長は、日本の温泉研究をリードしてきた由佐悠紀・京都大学名誉教授が務める。
日本一の泉源数と湧出量を誇る別府には、京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設があり、由佐会長は30年前の源泉調査も手がけている。
今回、30年前の調査時と同じ源泉を調査したところ、約7割で熱量が低下。
掘削し直した源泉でも、約半数で熱量が低下していた。
また、掘削し直す際には、以前の源泉よりも深く掘らないと、同程度の泉温が確保できない状況であることが分かった。
「由佐会長は、調査データが示した温泉資源の減衰に強い危機感を示し、温泉発電の開発が進む今、より積極的に重要な源泉を守るための方策が必要だという議論になった」(堀室長)。
それが、温泉開発を避けるべき地域として「アボイド・エリア」を定めることだ。
審議会は、源泉調査のデータを基に、熱源である伽藍岳と鶴見岳に近い明礬温泉の一帯や鉄輪温泉の一部地域などを、アボイド・エリアに指定。
このエリアで温泉発電を開発する事業者に対して、FIT申請や県への掘削手続き、かねて条例で定めている市への事前協議の届出を行う前に、温泉発電審議会の事前審査を受けることを義務付ける。
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出典
『別府市が温泉発電に「待った」、込めた意思 地域の資源を取り戻す戦いが始まった』
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/022700115/060100118/
その間、ずっと奥歯に挟まっていたのは、他社の事故情報がほとんど耳に入ってこなかったことです。
そこで退職を機に、有り余る時間を有効に使うべく、全国各地でどのような事故が起きているか本ブログで情報提供することにしました。
また同時に、安全に関する最近の情報なども提供することにしました。