2021年5月18日11時1分にYAHOOニュース(幻冬舎GOLD ONLINE)から、『頻発する医療ヒューマンエラー…「不注意」よりも重大な原因は』というタイトルで、下記趣旨の記事がネット配信されていた。
ヒューマンエラーによる医療事故は、減らすことはできてもなくせるものではありません。
できる限り減らすためには、「注意しよう」というシュプレヒコールではなく、原因の「分析的な理解」が不可欠です。
人間の複雑な行動をシンプルに捉える「行動モデル」について、対談形式で解説します。
※本記事は、河野龍太郎氏の著書「医療現場のヒューマンエラー対策ブック」(日本能率協会マネジメントセンター)より抜粋・再編集したものです。
【ヒューマンエラー「注意しよう」よりも原因分析が必要】
――医療現場のヒューマンエラーによる事故が頻繁に起こっています。
なくすためには何をすればいいのでしょう。
河野:まず、理解していただきたいことは、ヒューマンエラーはゼロにはならないということです。
安全などどこにも存在しません。
あるのはリスクだけなのです。
私たちは非常に低いリスクのことを勝手に安全と言っているだけなのですね。
エラーの発生確率を極限まで低減することはできても、ヒューマンエラー自体をゼロにすることはできないのです。
――エラー防止のためにヒヤリハット情報の収集などは、広く現場に普及していますね。
河野:リスクを低減するためには、「起こったものを分析して対策をとる」と「起こる前に対策をとる」の2つのアプローチがあります。
その意味で、ヒヤリハット情報の収集と分析は「起こる前」のアプローチだと言えます。
確かにリスクは低減するし、アプローチ自体は間違っていません。
ヒヤリハット事象が正しく分析された場合には有効な対策が期待できます。
しかし、エラーとなった行動やその背後の要因全体が分析されていない場合には、対策は限られたものになってしまうでしょう。
ヒヤリハット事象の分析は絶対にやるべきですが、単にやるだけでは、有効な対策の立案と実行には限界のあることを知っておいてください。
――では、減らすためには、何を知って何をすべきでしょう。
河野:まず最初に行うべきは、ヒューマンエラーがなぜ起こるのかという発生のメカニズムの基本的考え方を理解し、具体的にどのように起こったのかを明らかにすることです。
従来、エラーの原因は「不注意だった」「ボンヤリしていた」といった個人の状態を問題視し追求してきました。
しかしそうなると、最終的な対策は「注意しよう」といったシュプレヒコール(スローガンの唱和)で終わってしまうのです。
そうではなくて、「人は、環境や体調などの特性によって結果的にウッカリしたり、間違った判断をするものだ」という理解のもと、なぜその行動を取ったのかについて考えるべきなのです。
【エラー発生と拡大防止に有効な「工学的アプローチ」】
――提唱されるヒューマンファクター工学的アプローチとは、発生メカニズムを明確化するということですか?
河野:ヒューマンファクター工学的アプローチとは、理論に基づいて理に適った具体的な対策を実行するという一連の考え方です。
まず、人はその能力を越えることができません。
仕事で能力以上のことを要求されても、それ自体がムリな話です。
この部分をきちんと管理することです。
さらに、エラーを減らしたければ、まず、起こりにくい環境をつくることが大切です。
次に、人がエラーを誘発するような環境に置かれても、それに負けないようにすることです。
ヒューマンファクター工学的アプローチは万能ではないけれども、それを管理する強力な手段であることは事実です。
――なくすことはできなくても、管理することはできる?
河野:ここでいう管理とはリスクの管理、可能な限りリスクを減らすという意味です。
ヒューマンエラーをトリガー(引き金)として事故が発生するのであれば、「エラーそのものをなくす」「エラーが起きても拡大させない」という2段階があることに注目しなければならない。
これは、ヒューマンエラーだけでなく、システムセーフティの基本的な考え方です。
この発生防止と拡大防止に対して工学的アプローチを応用すると有効だということです。
【人間の複雑な行動をシンプルに分解する「行動モデル」】
――ヒューマンエラーの定義・モデルについて説明してください。
河野:私は、ヒューマンエラーを「もともと人間が生まれながらに持っている諸特性と人間を取り巻く広義の環境が相互に作用した結果決定された行動のうち、ある期待された範囲から逸脱したもの」と強調して説明しています。
ヒューマンエラーついては、実に多くの人が定義していますが、それを要約すると3つに整理できます。
「ある行動があり、その行動が期待するところから外れてしまったのがヒューマンエラーであり、それは偶然そうなったものを除く」、簡単に言うとこうなります。
次の3つのモデルが理解を助けます。
●レビンの行動モデル(人の行動を決めるのは、人の要因と環境の要因があり、2つに分けて考える)
●コフカの行動モデル(環境には、物理的空間と心理的空間の2つがあり、人間の行動は常に心理的空間に基づいて決定される)
●天秤モデル(当事者にとって、もっとも都合のよいと考えられる行動を選択する)
行動を理解しようとする場合、これらのどのモデルを使うのかではなくて、それぞれをリンクして考えることが重要です。
――その中で、環境を狭義と広義の2つに分類されていますね。
河野:狭い意味とは、文字どおり、目の前にある環境のことです。
また広義の意味では、その背景にある環境のことです。
判断や行動は、たとえばその病院の組織文化や風土に左右されます。
これらはすべて、背景にある広義の環境です。
また、院内に教育制度があり正しい教育を受けているか、あるいは、そのときの人員配置などにも判断や行動は影響されます。
私たちは目の前の物理的環境だけで考えがちですが、このように背景にある環境も、深くヒューマンエラーに関係してきます。
近年、ようやくその理解が広がってきて、背後要因として抽出されたことに対して対策が立てられるようになり、徐々に効果も出てきたように感じています。
――モデルについて、もう少しご説明ください。
河野:先ほど、ある行動があり、その行動が期待された範囲から外れた、それこそがヒューマンエラーだと説明しました。
つまり、ヒューマンエラーは行動した結果であり、エラーを理解するためには、行動のメカニズムを理解することが大前提となるのです。
そうはいっても、人間の行動は複雑で、そのままでは理解できません。
その複雑な行動を極力シンプルにとらえる、それがモデルという考え方です。
モデルとは「複雑なものを簡単に理解するための道具」であり、「目的に応じて考えやすいように、不要なものを切り捨て、必要なものに範囲を絞って考え、目的を達成しようとするものの見方・考え方」と考えてください。
実は、人は、このモデルを無意識に使い分けているのです。
――少し難しいです。
河野:たとえば、貧血のときには横に寝かせて、足を高くしたりしますね。
これは、足を巡っていた血液を心臓側に戻し、頭に血液を送ることを目的としています。
このとき、その人は足から心臓へという血液の循環モデルを利用し、モノは高いところから低いところに流れるという重力モデルを利用しているのです。
こうすればこうなるだろうと、人は無意識にモデルを選んで頭の中で操作しているのです。
専門的で難しいことは、場合によっては必要ないので、人は常に考えやすいようにモデルを選びながら行動しています。
行動のモデルを理解し、結果的にエラーとなってしまった具体的な判断と行動を理解することが、ヒューマンエラー対策に直結する、そう考えています。
河野 龍太郎 株式会社安全推進研究所 代表取締役所長
https://news.yahoo.co.jp/articles/e1dba1a36b6b678e4f3ded5cb5209c99c52d89e8
その間、ずっと奥歯に挟まっていたのは、他社の事故情報がほとんど耳に入ってこなかったことです。
そこで退職を機に、有り余る時間を有効に使うべく、全国各地でどのような事故が起きているか本ブログで情報提供することにしました。
また同時に、安全に関する最近の情報なども提供することにしました。