2024年2月19日7時31分に毎日新聞から、下記趣旨の記事がネット配信されていた。
理科の実験の準備が原因でアスベスト(石綿)関連がんの中皮腫を発症したとみられるとして、69歳で死亡した元小学校教諭の男性が、公務員の労災にあたる公務災害と認定された。
遺族への取材で判明した。
かつては実験器具に石綿が使われており、飛散した粉じんを吸ったとみられる。
石綿による教員の労災認定は事例が少なく、専門家は「氷山の一角だ」と指摘している。
【アルコールランプの芯をさばいた】
和歌山市立小学校の教諭だった山東さんは、1977年から2013年にかけて、主に高学年の授業を担当した。
21年に中皮腫を発症し、手術担当医からは「石綿が原因」と告げられた。
公務災害認定を求めて地方公務員災害補償基金に請求していたが、22年4月に死亡。
24年1月、妻が認定通知書を受け取った。
山東さんは基金への申立書で、「理科の授業の準備で、アルコールランプの石綿製の芯の上部をさばいて燃えやすいようにした。飛散して落ちた粉じんの掃除もした。当時は石綿の発がん性を知らず全く無防備だった」と説明していた。
ランプで熱するビーカーなどを置く金網も、石綿で耐火被覆されたものを使っていた。
石綿は古代よりランプの芯に使われていたが、石綿製のひもを切断すると、粉じんになりやすいとされる。
厚生労働省は04年に石綿の製造、使用を原則禁止にしており、現在、日本製の実験器具に石綿は使われていない。
妻は「病気をしたことがない人だったので診断を聞き、まさかと思った。主人は戻ってこず無念だが、認定に喜んでいると思う」と話している。
【「氷山の一角」と専門家】
教員の石綿による労災が表面化したのは今回で10人目。
実験器具に含まれる石綿が飛散していたなどとして、大学教員らの労災が認められている。
しかし、環境再生保全機構の調査では、労災の対象にならない人にも医療費などを支給する「石綿健康被害救済法」に基づき認定された中皮腫患者のうち、242人が教員経験者だった。
中皮腫・じん肺・アスベストセンター(東京都)所長の名取医師は、「教員の労災認定が10人程度とは極めて少ない。石綿が吹き付けられた建物内にいて労災認定されるケースは多いが、同じ状況でも教員では特別なことがない限り公務災害として認められないなど、審査が厳し過ぎ、改善を要する。教員もあきらめずに災害認定を求めてほしい」と話している。
https://mainichi.jp/articles/20240217/k00/00m/040/141000c
(ブログ者コメント)
〇関連情報調査結果、理科実験時の石綿で教員が労災認定された事例が1件、見つかった。
内容は、大阪の高校で炎色反応実験の準備としてヒモ状の石綿繊維を切断する作業時に吸い込んだというもの。
これは上記報道にある「今回で10人目」の中の1件だと思われる。
(2014年4月14日17時10分 週間金曜日オンライン)
大阪の府立高校に勤めていた男性の高校教諭が2007年に中皮腫により57歳で死亡した件に関し、地方公務員災害補償基金大阪府支部審査会が今年1月、死亡原因は理科の実験で使用していたアスベスト(石綿)だとし、労災を認定していたことがわかった。
学校現場での石綿災害の労災認定は、滋賀県の小学校の体育教諭が体育館の天井に吹き付けられた石綿の飛散が死亡原因として労災が認められた(10年)が、理科実験での認定は初めて。
石綿はかつて理科実験でよく使われており、今後、労災認定が拡大しそうだ。
審査会の調べでは、理科担当の男性教諭は1978年から84年頃にかけて、金属イオンの溶液を滲み込ませたひも状の石綿繊維に火を付けて、色の違いから金属の種類を見分ける炎色反応実験を生徒たちのために繰り返し行なっていた。
実験準備ではひもをハサミで短く切断するが、審査会はその際に飛び散った高濃度の石綿粉じんを吸い込んでいた可能性があるとしている。
男性は在職中06年に激しい咳や高熱が続き、同年10月に中皮腫と診断されたが、病状悪化は速く、翌年1月に死亡した。
遺族は公務災害を申請したが、09年に同支部が「理科実験での石綿飛散の状況は明らかでない。あっても限定的」などとして労災認定しなかったために、不服とした遺族が審査会に不服審査を申し立てていた。
20年ほど前までは、理科実験で石綿を使うことは一般的だった。
最も一般的に使われたのは、アルコールランプの上にビーカーなどを載せる石綿付きの金網。
遺族は「石綿金網も原因」と主張していたが、同審査会は「金網からの石綿飛散は濃厚ではない」としている。
文科省に実態調査を申し入れた「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」の古川会長は、「アスベスト救済法で労災認定された人にも教員は多い。近くの工場による被害等と認定された人も実は学校現場が原因で中皮腫などになった教員である可能性もある。今回、あまり知られていない実験のことが認められたことは意義があるが、理科実験で最も一般的だった石綿金網も劣化して飛散したりするので危険だったはず」と話している。
退職者も含めた教職員の一刻も早い調査をすべきである。
(粟野仁雄・ジャーナリスト、4月4日号)
〇一方、大学の研究現場で長年、石綿を使った器具を使用してきた研究者が死亡後、時効は過ぎていたが労災認定されたという事例も見つかった。
(2006年6月28日18時17分 朝日新聞)
近畿大学(大阪府東大阪市)で油化学の研究を長年続け、教授で退職した同府内の男性(当時71)が94年夏、アスベスト(石綿)による中皮腫で死亡していたことが分かった。
終戦直後から十数年間、石綿を使った実験器具を使っていた時期に石綿を吸い込んだとみられ、死亡の約3年前に発症。
労災の時効(死後5年)は過ぎていたが、3月に施行された石綿被害者救済法(石綿新法)に基づいて職歴による発症が認められ、特別遺族年金の支給が決まった。
学校教育や大学の研究現場では、かつて石綿付き金網や石綿を使った保温・断熱器具などが多く使われてきた。
石綿対策全国連絡会議の古谷事務局長は、「研究者の石綿疾患は国内では聞いたことがなかったが、潜在的な健康被害が広がっている可能性もある」と指摘している。
遺族によると、男性は1948年に近畿大の前身の大阪理工科大学に採用された。
91年に健康診断で肺に影が見つかり、入院して中皮腫と判明。
91年9月に退職。
94年8月4日に死亡した。
遺族側は、死亡当初は原因が分からず、昨年6月の「クボタショック」後に石綿との関連に気づいた。
48年から15年以上、油脂に含まれる成分を抽出・分離する実験などの際、石綿を使った器具を研究室で使っていたという。
大学からも「昭和の時代、実験機材として保温のために曝露(ばくろ)状態の石綿を使い、耐熱用に石綿を塗り固めた金網も使っていた時期がある」との回答が得られたという。
日常的に石綿にさらされる曝露環境で実験、研究に従事していたとの主張が認められ、5月、年金支給が決定した。
クボタなど、従業員の労災死に補償を上積みする企業があることから、遺族は大学にも補償を要求。
だが、同大総務部は「男性が中皮腫で亡くなったことには驚いており、お悔やみを申し上げたい。ただ当時のことは詳しく把握できず、勤務と発症の因果関係は分からない」としており、補償には消極的な姿勢を見せている。
遺族は「同様に健康を害した研究者がいるかもしれず、大学は社会的責任として事実を公表し、警鐘を鳴らすべきだ」と話している。
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実験器具の卸売業者などによると、各地の学校での吹き付け石綿が問題になった80年代後半以降、メーカーは自主的に石綿付き金網などをステンレスやセラミック素材に切り替えていったという。
http://www.asahi.com/special/asbestos/OSK200606280057.html
その間、ずっと奥歯に挟まっていたのは、他社の事故情報がほとんど耳に入ってこなかったことです。
そこで退職を機に、有り余る時間を有効に使うべく、全国各地でどのような事故が起きているか本ブログで情報提供することにしました。
また同時に、安全に関する最近の情報なども提供することにしました。