







2025年9月14日20時51分にYAHOOニュース(Merkmal;ライター寄稿文)から、下記趣旨の記事がネット配信されていた。
■潜水艇事故の安全欠陥
米国のツアー会社オーシャンゲートの潜水艇「タイタン」は、2023年6月18日、ニューファンドランド島セントジョンズを出港した。
タイタニック号の沈没地点から約3800m離れた海底3346m地点で、「重りをふたつ落とした」と報告した直後、大きな音とともに連絡が途絶えた。
捜索の結果、潜水艇は水圧で圧壊し、乗員5人全員が死亡したことが確認された。
調査委員会は、潜水艇に構造上の欠陥があり、安全管理が軽視されていたと指摘した。
船体は主にカーボンファイバーとチタンの複合材で作られていたが、炭素繊維は潜水艇には不向きとされる素材だ。
設計の問題で、以前の潜航で記録された異音は船体の損傷やひずみの兆候だったが、適切に対処されなかった。
複数回の潜水試験で疲労が蓄積し、メンテナンス時に劣化していた可能性のある中古パーツも使われていた。
さらに管理費を節約するため、約7か月間も保護されずに野ざらしで放置され、深刻な老朽化を招いていた。
■深海ツアー安全神話の崩壊
耐久性や安全性について、外部のエンジニアや従業員から懸念が伝えられたが、オーシャンゲートのストックトン・ラッシュCEOは独善的で高圧的な態度をとり、周囲を萎縮させていた。
リスク管理への慎重な意見には耳を貸さず、短期間で進められる計画やコスト削減案は歓迎した。
安全性に異議を唱えた従業員デヴィット・ロックリッジは解雇された。
オーシャンゲートは「イノベーションの阻害」を理由に船級協会の認定を受けていなかった。
また、 「ひとり25万ドル(約3600万円)」 の高額ツアー費用を徴収しながら、参加者を「乗客」ではなく「ミッション・スペシャリスト」と呼び、ボランティア扱いとすることで規制の適用を回避した。
対外的には、安全確保や試験について虚偽の説明を行っていた。
深海ツアーはリスクを伴う冒険的な事業であり、事業者に向こう見ずな性格があること自体は驚きではない。
しかし、どんな場合でも人命が軽視されることがあってはならない。
潜水艇の規制や国際的な枠組みの不十分さも指摘されており、今後は監督機関の権限強化や規則の明確化が求められる。
■潜水艇事故の責任構造
鉄道や自動車といった交通業界では、安全基準や監督、認証、規制の枠組みが整備されているのは当然のことだ。
では、なぜ今回のような事故が起きたのだろうか。
潜水艇は航空宇宙や商船と比べても規制が未発達な分野であり、潜水艇を使ったツアーも例が少ない。
事故は国際水域で発生しており、オーシャンゲートは安全規制の空白を狙って事業を行っていたことが明らかだ。
オーシャンゲートのストックトン・ラッシュCEOには過失責任が問われる可能性があった。
生存していればの話だが、実際には自らタイタン号を操縦し、犠牲となった。
これは単なる冒険家の勇敢な最期では片付けられない。
他の4人の乗客も巻き添えとなったのだからだ。
■潜水艇規制の強化
今回の事故を受け、今後は ・厳格な試験と認証 ・内部告発者保護を含む安全性の透明性確保 ・船体の管理・保守体制の整備 ・商業観光や探検で使われる潜水艇に対する規制枠組みの構築 ・追跡や検出技術の導入が不可欠となる。
商業的な深海事業は、投資家や港湾当局からより厳しい監視を受けることになる。
保険会社の要件も厳格化される見込みだ。
潜水艇の船級登録と安全性に関する独立した検証も必須である。
国際船級協会は、国際水域で運航されるかどうかにかかわらず、すべての有人潜水艇に認証取得を基本要件とするよう改めて呼びかけている。
領土や水域、法律のグレーゾーンはあっても、安全のグレーゾーンは許されない。
領海か公海かの違いで人命が危険にさらされることがあってはならない。
二度と同様の痛ましい事故を繰り返さないため、各国の関係機関や業界団体が連携し、空白地帯を解消して安全を確保する枠組みを構築することが求められる。
タクヤ・ナガタ(ライター)
https://news.yahoo.co.jp/articles/349235a3c1e57671db9648ff11f9971058a76e7c
※本件、2025年8月8日付でWIREDから、調査委員会の最終報告書が公表されたという、下記趣旨の記事がネット配信されていた。
上記の記事は、当該報告書をベースに書かれたものと思われる。
2023年に乗員5人が死亡した潜水艇「タイタン」圧壊事故に関する最終調査報告書が公表された。
設計ミスや企業の過失が強く問題視され、すべての原因は「CEOに行き着く」と調査責任者は『WIRED』に語った。
米沿岸警備隊の海洋調査委員会(MBI)は8月5日(米国時間)、2023年に発生した潜水艇「タイタン」の圧壊事故に関する最終報告書を公表し、運営会社OceanGateの創業者兼最高経営責任者(CEO)だったストックトン・ラッシュについて、技術面・管理面で深刻な責任があったと厳しく批判した。
報告書では、ラッシュが「タイタンは破壊不可能だと誤認させる言動を繰り返していた」としているとともに、同社の「文書上の安全手順と実際の運用との間に重大な乖離」があったと断じている。
調査を主導したMBI委員長のジェイソン・ノイバウアは『WIRED』の取材に対し、「すべての証拠が、この事業を率いていたひとりの人物に集中していました。結局、すべてがラッシュに行き着いたのです」と語った。
ラッシュは、23年6月にタイタンを操縦し、タイタニック号の残骸を目指して潜航した。
しかし、潜水艇は突如圧壊し、搭乗していた5人全員が即死した。
同乗者には、「ミスター・タイタニック」として知られるベテラン潜水士ポール=アンリ・ナルジョレのほか、実業家ハミッシュ・ハーディング、そして父子の乗客シャザダ・ダウードとスレマーン・ダウードがいた。
事故前にタイタンは13回、タイタニック号の海底遺構への潜航を成功させていた。
■事故直後に調査を開始、翌年公聴会を開催
事故発生から5日後に沿岸警備隊は調査を開始し、24年9月には2週間にわたって公聴会が開かれた。
そこでは、タイタンに採用された革新的なカーボンファイバー製船体に関する多数の欠陥が専門家から指摘され、過去の潜航ミッションでも運用上の問題が相次いでいたことが明らかにされた。
例えば、21年の初潜航では、タイタンのチタン製ドームの一部が脱落した。
また最後の潜航前の冬には、潜水艇が氷点下の屋外に長期間放置されていた。
カーボンファイバー複合材は、内部の微細な空隙に入り込んだ水分が凍結すると劣化する恐れがあるという。
複数の証言によると、ラッシュは、潜水艇業界の関係者や自社の初代海洋運用責任者デヴィッド・ロックリッジから寄せられた数々の安全上の懸念を無視、あるいは軽視していたという。
ロックリッジは18年、社内報告書で多数の問題点を詳細に指摘したが、その後に解雇されている。
ロックリッジはコメント要請に応じなかった。
また、OceanGateの現経営陣はいずれも24年の公聴会に出席しておらず、最後の潜航を運用していた責任者も証言を求められることはなかった。
今回公表された報告書では、ラッシュが社員に対し解雇をほのめかして意見を封じるなど、有害な職場環境を助長していたと非難している。
タイタンは、いずれの国にも登録・船籍がなく、沿岸警備隊が認定する機関による検査や認証も受けていなかった。
今回の報告書によると、ラッシュは沿岸警備隊の資格取得申請時に、潜水艇の仕様について虚偽の記載をしていたとされる。
また、OceanGateはタイタンについて、バハマ船籍に登録されている、あるいは今後登録されるとたびたび主張していたという。
「最も衝撃だったのは、タイタンがこれほど長期にわたり、あらゆる規制の枠外で運用されていたという事実です」とノイバウアは語った。
「これまで調査を担当したなかでも、(安全軽視の姿勢が)際立っています」
■破裂音を軽視
報告書では、水深3,000m付近で瞬時に起きた即死事故に関する明確な機械的原因の特定には至らなかったとしている。
しかし、有力な可能性としてふたつの構造的欠陥を挙げている。
ひとつは、カーボンファイバー製の船体とチタン製リングを接合する接着部分の破断。
もうひとつは、カーボンファイバー層がはがれる、“層間剥離”だという。
OceanGateが、船体の製造過程での欠陥や耐用年数に関する十分な分析あるいは試験を実施していなかった、と報告書は厳しく指摘している。
また報告書では、船体に設置された音響センサーやひずみゲージのデータから、22年のタイタニック号への潜航後にカーボンファイバーの層間剥離が発生し、大きな破裂音が記録されていたことも明らかにされた。
しかしラッシュは異音を軽視。
OceanGateの社内には、23年時点でセンサーデータを適切に解析できる人物が残っていなかったことも判明した。
技術部門の責任者は、圧壊の2カ月前に退職していたのだ。
「権限はラッシュに一極集中していました」とノイバウアは語る。
「どれほど大きな音が鳴れば、あるいは何回異音がすれば運用を停止するか、といった明確な基準が設けられていませんでした。
これは意図的だったと見ています。
結局はタイタンを使い続けたかったのでしょう」
■監督強化の勧告
さらに報告書には、米国企業が運用する潜水艇に対する連邦政府の監督強化を求める複数の勧告が盛り込まれている。
たとえタイタンのように国際海域で運用される場合であっても、ロイド船級協会やアメリカ船級協会(ABS)などの第三者機関による認証を義務づける内容だ。
これにより、事実上カーボンファイバー製の船体は排除されていく可能性が高い。
というのも、いずれの機関もこれまで乗員を乗せるカーボンファイバー製の潜水艇を認証した例が無いからだ。
「カーボンファイバーは、時間とともに損傷が蓄積される特性があるため、適材とは考えにくいのです」と、ノイバウアは指摘している。
OceanGateの初代エンジニアリング・ディレクターであるトニー・ニッセンは、今回の報告書がカーボンファイバー製の船体や音響モニタリングシステム全体を一括して批判している点に疑問を呈している。
ニッセンによると、初代船体における問題は、まさにその音響センサーによって一部が特定されたので、船体を廃棄して新たなものに交換した経緯があるからだという。
「設計自体が不十分だったというのは正確ではありません」とニッセンは語る。
「設計が不十分だと言うのであれば、製造元の当初の解析や、最初の船体での成功例にきちんと向き合うべきです」。
またニッセンは、「リアルタイムモニタリングは、本来の設計通りに機能していました。しかし2基目の船体では、そのシステムが無視されていたのです」と指摘した。
非営利団体のWorld Submarine Organizationでエグゼクティブ・ディレクターを務めるウィル・コーネンは次のように語った。
「沿岸警備隊の徹底した調査に敬意を表します。
今回の報告は、業界の専門家たちが以前から認識していた通り、タイタンの悲劇が防ぎ得たものであったことを明確に裏付けました。
今後の課題は、この特殊で複雑な業界において、安全性と責任ある運用を担保する、より強固な国内外の規制の枠組みを構築していくことです」
■遠隔操作ロボットの限界
沿岸警備隊の報告書は、タイタンの消息不明後に行われた捜索・救助対応にも言及している。
ノイバウアは、OceanGateが緊急連絡先として登録していた複数の関係機関が、当日の潜航計画について事前に把握していなかったと明かした。
さらに同社は、潜水艇と同じ水深まで到達可能な遠隔操作型無人潜水機(ROV)を備えておくべきだったとも指摘している。
タイタンの行方不明を受けて世界が固唾をのんで見守った4日間の捜索・救助活動だったが、ノイバウアは当初から成功の可能性は低かったと懐疑的な見方を示している。
「たとえ発見が生存可能とされた96時間以内にであったとしても、乗員が生存していて機体が海底で絡まっていた場合、引き上げは困難だったでしょう」とノイバウアは語る。
実際、タイタンの残骸を発見したROVには、機体を動かしたり救出したりする能力がほとんどなく、酸素も残り1時間を切っていたと見られるからだ。
■遺族が提訴、司法捜査の行方は不透明
今回の報告書は、もしラッシュが生存していれば、過失による刑事訴追の対象となっていた可能性があったと明記している。
一方ほかの関係者については、調査対象としての記載はなかった。
ただし、『WIRED』は昨年、ニューヨーク南部地区連邦検察が、OceanGateの資金調達に関連する刑事捜査を進めていたと報じている。
この件について、米司法省は公式なコメントを控えており、調査の行方は不透明なままだ。
タイタンの事故を巡り、潜水士のナルジョレの遺族はワシントン州でOceanGateおよびラッシュの遺産管理人、そしてタイタンの製造に関与した関係者らを相手取り、損害賠償を求めて提訴している。
ラッシュやナルジョレ、そして有料乗客の遺族らは、『WIRED』のコメント要請に応じていない。
報告書の公表を受け、OceanGateは次のような声明を発表した。
「2023年6月18日に亡くなられた方々のご遺族、そして今回の悲劇によって影響を受けたすべての方々に、あらためて心からの哀悼の意を表します。
この事故を受けて、当社は事業を恒久的に終了し、その後は沿岸警備隊による調査に全面的に協力することに注力してきました」
(Originally published on wired.com, translated by Miki Anzai, edited by Mamiko Nakano)


















その間、ずっと奥歯に挟まっていたのは、他社の事故情報がほとんど耳に入ってこなかったことです。
そこで退職を機に、有り余る時間を有効に使うべく、全国各地でどのような事故が起きているか本ブログで情報提供することにしました。
また同時に、安全に関する最近の情報なども提供することにしました。