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                                                       本ブログでは、産業現場などで最近起きた事故、過去に起きた事故のフォロー報道などの情報を提供しています。  それは、そういった情報が皆さんの職場の安全を考える上でのヒントにでもなればと考えているからであり、また、明日は我が身と気を引き締めることで事故防止が図れるかもしれない・・・・そのように思っているからです。  本ブログは、都度の閲覧以外、ラフな事例データーベースとして使っていただくことも可能です。        一方、安全担当者は環境も担当していることが多いと思いますので、あわせて環境問題に関する情報も提供するようにしています。       (旧タイトル;産業安全と事故防止について考える)
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(2010年8月21日 旧ブログ掲載記事)
 
表記の事故に関し、事故報告書は見当たらないものの、ネット情報を整理すると、事故の原因がおぼろげながら見えてきた。
 
「事故の概要」
 
・事故当日は、テレビの液晶の一部となる有機化合物を合成するため、液体状や粉末状の薬品3種類を混ぜて反応させる作業を行っていた。

・午後1時から原料の仕込みを開始。反応を促進させるため、撹拌させながら反応槽の温度を180℃から190℃まで上げた。

・午後4時半に作業終了。翌日も加熱と撹拌を行い、3日目に取りだす予定だったが、作業終了の約1時間後に、反応槽が爆発した。

・爆発した反応槽は、高さ約5.9m、直径約1.3m、厚さ約11cm、重さ約10トン。その反応槽が爆発の影響で破断し、上側部分が約40m飛んで、事業所の敷地外に落ちた。

・従業員らは、反応の工程で温度が思うように上がらず、作業を中断していたと説明。
 
以下は、ネタ元となったネット情報。

 
「事故の原因」
 
ネットで得られたのは、以下の2情報。
①中間報告書資料
合成作業で用いた3種類の原材料の熱分析試験を実施した結果、一定温度まで加熱し、その後、温度制御しない状態で放置すると、加熱を止めているのに発熱反応が始まり、その後、急激な温度と圧力の上昇が確認された。
②該社2010年環境報告書
通常は、反応槽に原料である化学薬品3種類を仕込み、反応温度での反応がほぼ終了した段階で作業を停止するが、反応危険性が不明であったため、当日は反応温度より低い温度で作業を停止した。
その後、反応槽内部で徐々に自己反応が進み、暴走反応に至って内部圧力が急激に上昇し、反応槽が爆発した。

 
「対策」
 
□該社2010年環境報告書記載内容
・製造マニュアル総点検(内容に不備がないか、安全対策は十分か、マニュアルどおりに作業が行われているか)

・開発品だけでなく、既存製品も含めて、改めてDSC(示差走査熱量計)などの一般的な熱分析データを精査し、必要に応じてARC(加速速度熱量計)試験を実施する。

・全社的に取り組んでいるリスクアセスメントについて、レベルアップを図る。  

 
 
(ブログ者コメント)
 
・事故報告書が公になっていないので何とも言いかねるが、上記の情報から推察すると、3種類の原料を反応させて液晶原料を合成する、その反応特性を完全に把握しないまま、合成作業を行っていた可能性がある。
そういった基礎データは実験段階で取得し、その後、実プラントでの製造に移る筈であるが、今回はどのようになっていたのだろうか?お
そらくは使用しているだろうと思われる反応危険予測プログラムに頼り切っていたのだろうか?

・作業マニュアルどおりに反応が進まないので一旦作業を中断した、と読み取れる記事があるが、その情報を受け、製造責任者はどう判断したのか?そこも一つのポイントだろう。
事が起きた後で、マニュアルどおりにいかなかった場合は内容物を一旦抜き出すべきだった、などと言うのは簡単だが・・・・。

・ある種の条件下に置かれた反応性に富む物質は、外部加熱せずとも時間の経過と共に温度が上昇し暴走に至ることがあるということは、化学反応業務に携わる者の常識。
該社は、そういった危険な化学反応に関する知見を十二分に保有し、ノウハウも蓄積していただろうに、なぜ、このような事故を起してしまったのだろうか?
おそらくは、いくつものシステム欠陥やヒューマンエラーが重なって事故に至ったのだろうと思うが、それらの間接原因に関心をひかれること大である。
 
 
 
(2010年11月27日 修正1; 追記)
 
2010年11月26日付で、下記趣旨の記事が、神奈川新聞よりネット配信されていた。
 
日本カーリット横浜工場の爆発事故を教訓に、横浜市消防局は、危険物製造所の設置に関する独自の審査基準8項目を策定する。

12月14日まで市のホームページなどで市民の意見を募集中。

具体的には、「製造作業の内容を変更する場合は、製造部門だけで判断せず、研究部門も含め組織的に判断する」など。
 
 
 
(2010年12月11日 修正2; 追記)
 
2010年12月10日12時3分にmsn産経ニュースから、同日付で毎日新聞神奈川版から、また、12月11日付で神奈川新聞から、下記趣旨の記事がネット配信されていた。
 
警察は、10日、業務上過失傷害と業務上過失激発物破裂の疑いで、当時の工場長ら5人を書類送検した。
また、同日、労基署も、労安法違反の疑いで、当時の工場長らを書類送検した。

 
また、捜査関係者への取材で、以下のことが分かった。
 
□当時、高圧釜で薬品を反応させていた作業員は、「反応が止まっていたと思い、作業を中断した」と供述している。

□爆発に至った薬品合成に関し、作業マニュアルは定めていたものの、労安法の規則で作成が定められている爆発や火災を防止するためのマニュアルが定められていなかったことが送検理由。
当時の工場長は、「赴任してきたらマニュアルがなかった。作らねばと思っていた」と話したという。
会社は、「作業マニュアルに記載されていると思っていた。(現場が)失念していた」と説明した。

 
同社は10月31日付で当該工場の廃止を決定。現在はサラ地になっている。
 
 

 
(ブログ者コメント)
 
定められてなかったマニュアルとは、労働安全衛生規則第274条に規定されたもののことであろう。内容は下記。
 
(作業規程)
第二百七十四条 事業者は、化学設備又はその附属設備を使用して作業を行うときは、これらの設備に関し、次の事項について、爆発又は火災を防止するため必要な規程を定め、これにより作業を行わせなければならない。
一 バルブ、コック等(化学設備(配管を除く。以下この号において同じ。)に原材料を送給し、又は化学設備から製品等を取り出す場合に用いられるものに限る。)の操作
二 冷却装置、加熱装置、攪拌(かくはん)装置及び圧縮装置の操作
三 計測装置及び制御装置の監視及び調整
四 安全弁、緊急しや断装置その他の安全装置及び自動警報装置の調整
五 ふた板、フランジ、バルブ、コック等の接合部における危険物等の漏えいの有無の点検
六 試料の採取
七 特殊化学設備にあつては、その運転が一時的又は部分的に中断された場合の運転中断中及び運転再開時における作業の方法
八 異常な事態が発生した場合における応急の措置
九 前各号に掲げるもののほか、爆発又は火災を防止するため必要な措置

 
 


(2012年1月7日 修正3 ;追記)

2012年1月5日21時10分に、読売新聞から下記趣旨の記事がネット配信されていた。

横浜簡裁は、業務上過失傷害などの罪で略式起訴された当時の工場長(54)、製造グループ指導係員(43)、グループ員(37)の3人に対し、それぞれ罰金60万円、50万円、40万円、同社に同50万円の略式命令を出した。
命令はいずれも昨年12月27日付。


出典URL http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20120105-OYT1T01068.htm


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化学関係の工場で約20年、安全基準の制定、安全活動の推進、事故原因の究明と再発防止策立案などを担当しました。
その間、ずっと奥歯に挟まっていたのは、他社の事故情報がほとんど耳に入ってこなかったことです。
そこで退職を機に、有り余る時間を有効に使うべく、全国各地でどのような事故が起きているか本ブログで情報提供することにしました。
また同時に、安全に関する最近の情報なども提供することにしました。

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