2019年5月15日5時0分に朝日新聞から、下記趣旨の記事が写真や図解付きでネット配信されていた。
校庭や園庭に置かれ、いつも子どもたちでにぎわう遊具。
遊びを通して挑戦を繰り返し、成長する場でもある。
だが、国の安全指針が浸透せず、点検が不十分な遊具も少なくない。
現場任せの安全管理を変える仕組み作りが求められている。
園庭で走り回って遊んでいた女児(当時3)は時折、フェンス越しの部屋をのぞいていた。
そこには前日に入所したばかりの0歳児の妹がいた。
2017年4月、香川県善通寺市の保育所。
女児はうんていの支柱とはしご(高さ約1m)との間にできたV字部分に首を挟まれた状態で見つかった。
保育士が気づいたのは約10分後。
救急搬送されたが、18年1月に亡くなった。
うんていは、妹のいる部屋のすぐそばにあった。
業務上過失致死容疑で捜査を受けた園長は今年1月に不起訴(嫌疑不十分)となったが、遺族が起こした民事訴訟は続く。
訴訟の資料では、うんていは子どもの成長に応じてはしご部分の高さを変えることができ、事故時はV字部分の角度は約44°だった。
遊具の安全をめぐっては、都市公園を所管する国交省が02年に指針を定め、日本公園施設業協会(東京、遊具メーカーなど約130社)が具体的な数値を盛り込んで安全基準を自主的に作成。
55°未満の上向きのV字部分を設けてはならないとしている。
保育所を運営する社会福祉法人は、年1回、業者に頼んで遊具の劣化などを点検していたが、安全基準を満たすかは調べていなかった。
理事長は取材に、「私も園長も、事故が起きるまで指針や基準を理解しておらず、危険な状態と認識していなかった。遊具を設置した責任はあり、大きな事故が起きたことは申し訳ない」と話す。
学校や幼稚園などにありながら、安全指針に沿って点検されていない遊具もある。
【総合遊具から3m下に落ちた】
神奈川県茅ケ崎市教育委員会は昨夏までに、市立小12校の総合遊具「アマゾンジャングル」を撤去した。
11年7月、市立西浜小からの連絡で母親(40)が駆けつけると、小学2年の息子は玄関前で寝かされ、意識もうろうとなっていた。
遊具から約3m下に落ち、頭の骨が折れるなどして1カ月近く入院した。
「安全なはずの学校で、こんな事故が起きるとは」と、母親は振り返る。
事故は、複数の高台やはしご、滑り台を組み合わせた総合遊具で起きた。
両親は男児とともに、設置や管理に瑕疵があったとして市を提訴。
協会に調査を依頼すると、安全基準の3mを上回る最高4m近くの高さから転落する可能性があり、頭を挟みかねない隙間も複数あった。
協会は、4段階評価で最も危険性が高いハザード3にあたり、使用不可と報告した。
17年7月、市が解決金を払い、遊具を撤去することで和解した。
市教委が他の11校にある同型の総合遊具を調べると、いずれもハザード3。
指針ができる前の1978~92年に設置され、点検では遊具の劣化しか調べていなかった。
市教委は取材に、「11校の総合遊具は調査でハザード3が判明し、老朽化も進んでいたため、速やかに使用禁止や撤去に踏み切った。国から活用を促された指針を点検にいかしてこなかったのは事実。残念に思う」と話す。
予算がなく、指針や基準に照らした点検をすべて行うのは難しいが、危険度の高いものから修繕などを始めているという。
【劣化点検のみで、安全基準調べない事例も】
90年代以降、子どもが箱ブランコと地面の間に挟まれて死亡する事故などが相次いだ。
都市公園を所管する国交省は、02年に遊具に関する安全指針を定め、これを受け、日本公園施設業協会が自主的に安全基準をまとめた。
学校と幼保を所管する文科省と厚労省は自治体に、施設内の遊具について国交省の安全指針などを活用するよう呼びかけているが、十分に浸透していないのが実情だ。
協会理事で安全基準作りの中心を担った遊具メーカー丸山製作所(東京都江東区)社長の丸山さん(53)によると、劣化点検のみを行い、基準について調べていないケースは少なくないという。
「子どもが一度の失敗で命を落としたり、障害を負ったりすることは大人の責任で防ぐべきだ」と話す。
津市教委は、市内すべての小中学校などで、安全基準に沿った点検を行っている。
ハザード3の遊具を優先的に修繕し、13年度は小学校の遊具の約35%もあったが、18年度は約13%まで減少。
日頃の点検に生かすため、教職員らは着眼点を協会の講習で学んでいる。
子どもの事故予防に取り組むNPO法人「Safe Kids Japan(セーフキッズジャパン)」の山中龍宏理事長(小児科医)は、「安全の指針がよく理解されていないようでは意味がなく、国は危険性が高いものから要点をまとめて周知するなどの工夫をすべきだ。自治体職員や現場の教員、保育士らによる管理には限界があり、国は、安全を満たしているかを専門業者が年1回は調べる仕組みをつくる必要がある」と話す。
◇
日本スポーツ振興センター(JSC)の14~16年度の学校事故をめぐる災害共済給付データを産業技術総合研究所が分析すると、遊具での事故は小学校で年間平均2万7000件超、幼保で1万3000件近く起きている。
落下が非常に多く、比較的重いけがでは頭のけがや腕の骨折が目立つ。
北村主任研究員は、「頭部は衝撃が大きいと重傷になる可能性があり、遊具からの落下に備えてゴムマットなどの軟らかい素材を敷いて衝撃を緩和する対策が必要だ」と提言する。
【事故が多い遊具】
□小学校
1 鉄棒 7171
2 うんてい 2635
3 ぶらんこ 2535
4 総合遊具・アスレチック 2154
5 すべり台 2136
□幼稚園・保育所など
1 すべり台 2040
2 総合遊具・アスレチック 1628
3 鉄棒 1337
4 砂場 1142
5 うんてい 1084
※小学校、幼保の管理下で起きた遊具ごとの事故件数。
JSCの2014~16年度のデータから3カ年平均を産総研が算出
【重い事故が起きやすい遊具】
うんてい 21.1%
総合遊具・アスレチック 13.6%
登り棒 13.2%
遊動円木 13.0%
ぶらんこ 12.7%
固定タイヤ 12.6%
鉄棒 12.4%
すべり台 12.4%
回旋塔 11.0%
ジャングルジム 10.8%
シーソー 10.4%
砂場 6.1%
※遊具ごとにみた重い事故の割合。
2014~16年度、小学校、幼保の遊具事故で、JSCの給付額1万円以上
から産総研が算出
出典
『うんていのすき間に挟まれ死亡 遊具の安全、なぜ不十分』
(ブログ者コメント)
善通寺事例は本ブログでも紹介スミ。
その間、ずっと奥歯に挟まっていたのは、他社の事故情報がほとんど耳に入ってこなかったことです。
そこで退職を機に、有り余る時間を有効に使うべく、全国各地でどのような事故が起きているか本ブログで情報提供することにしました。
また同時に、安全に関する最近の情報なども提供することにしました。