2024年5月13日18時47分に毎日新聞から、下記趣旨の記事がネット配信されていた。
大地震の直前、ある「異常」がはるか上空で観測されていたという複数の報告がある。
京都大の研究チームは、この異常が起こる物理的なメカニズムを解明したと発表した。
ただ、慎重な見方をする地震学者も多い。
地震予知につながる可能性はあるのか。
この異常は、上空約60~1000キロにわたって広がる「電離圏」と呼ばれる領域で観測されてきた。
太陽からの強い紫外線で大気中に含まれる窒素や酸素の原子が電離して、電子やイオンが多く存在しており、特に上空300キロ程度で電子の密度が高くなる。
京都大の梅野健教授(通信工学)によると、東日本大震災(2011年)や熊本地震(16年)、今年1月の能登半島地震など、規模の大きな地震が起きる40分から1時間ほど前に、この電離圏に含まれる電子の密度に変化が生じる現象が見られてきたという。
北海道大の研究チームも、いずれも大津波をもたらしたスマトラ沖地震(04年)、チリ地震(10年)などで、直前に震源域付近上空の電離圏に含まれる電子の密度が相対的に高くなっていたと11年に報告している。
【異常が起こるメカニズムを提唱】
電離圏の電子数は、国土地理院が全国約1300カ所に設置しているGNSS(全球測位衛星システム)観測網を活用することでリアルタイムに把握できる。
測位衛星から受信局に送信された電波は、電離圏を通過する際にわずかに遅延を起こすため、その差を利用して電離圏内の電子の密度を測定する仕組みだ。
ただ、なぜそうした異常が起きるのかは分かっていなかった。
そこで梅野教授らのチームは、これまで大地震を起こした断層面付近で、水を含む粘土が見つかっていたことに着目。
本震が起きる前の微小な岩盤の破壊による摩擦などで、粘土を含む岩盤が高温高圧になると仮定した。
水は、高温高圧の状況下では、液体と気体の区別がつかない「超臨界」と呼ばれる特殊な状態になり、電気を通さない絶縁体となる。
このため、摩擦によって岩盤が正の電気(+)を帯び、電離圏内にある電子(-)を地表に引き寄せ、周囲より密度が高くなると考えた。
これを実証するため、チームは細いステンレス管に粘土と水を封入して加圧し、周囲を電気ヒーターで加熱する簡易的な装置を作製して実験。
実際に帯電することが分かったとして、24年3月に静電気学会が発行する国際学術誌に発表した。
梅野教授は、「異常の説明ができる初めてのモデルができた。観測・解析を続けて、モデルとの整合性を確認していく。将来的には地震予知のシステムの実現を目指したい」と意気込む。
【宇宙からの観測計画】
GNSSによる観測だけではなく、人工衛星を電離圏に打ち上げ、地震発生前にどのような変化が起きるかを直接観測する、日本初の計画も進んでいる。
日本大と静岡県立大の共同研究チームは、重さ約10キロの箱形の超小型衛星(キューブサット)を開発している。
2本の折りたたみ式の棒(長さ約1・5メートル)の先端に観測センサーを搭載し、電子密度を観測しながら高度550キロを周回する。
地震に先行する現象の研究の先端を担うため、「前奏曲」という意味の「プレリュード」と命名した。
プレリュードは23年2月、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「革新的衛星技術実証プログラム」に採用された。
25年度中にもイプシロンロケットで打ち上げられる予定だ。
地震と電離圏異常の関係を調べる人工衛星は、04年にフランスが打ち上げた例がある。
その際も、マグニチュード4・8以上の地震が発生する4時間前までに、地上から電離圏に届く電波が弱くなる現象が確認された。
電子の密度が高くなったためと考えられる。
プレリュードによる観測を担当する静岡県立大の鴨川仁特任教授(地球電磁気学)は、「フランスの研究では十分なデータが取れていなかった。全地球的に高精度なデータを集め、地震と電離圏の関係が『真』なのかどうかを確かめていきたい」と話す。
中国などの海外諸国でも、こうした電離圏と地震の関係についての研究は進められているという。
ただ、鴨川特任教授は「地震と電離圏異常の関係は証明されたレベルとは言えない」と、慎重な見方も崩さない。
【「コンセンサス得られていない」指摘も】
そもそも地震予知について、日本政府は「科学的に困難」と位置づけている。
これまでに動物の行動や微小な地殻変動、地下水位の変化などからさまざまな予知が試みられてきたが、うまくいった試しはない。
国の地震予知連絡会の委員で、地震と水の関係に詳しい東京工業大の中島淳一教授(地震学)は、京都大のチームが提唱したメカニズムについて、「本震の前に微小な岩盤の破壊が起こることが前提とされているが、その破壊自体がこれまでに地震計などで観測されていてもよいはず。電子の密度だけを変化させるとは考えにくい」と疑問を呈する。
その上で、「地震と電離圏の関係はまだコンセンサスを得られてはいない。予知に向けては一つ一つ検証を重ねる必要がある」と指摘した。
元気象庁幹部は、「地下10キロを優に超える深さの電位の変化が、地上数百キロの電離層の状態に影響を与えるというメカニズムは腑(ふ)に落ちないが、懐疑的とまでは言えない。もっと検証データがほしい」と話す。
https://mainichi.jp/articles/20240512/k00/00m/040/176000c
(ブログ者コメント)
地震と電離層の関連については本ブログでも、電気通信大学の早川名誉教授や今回報道された梅野教授の研究などを紹介している。
その間、ずっと奥歯に挟まっていたのは、他社の事故情報がほとんど耳に入ってこなかったことです。
そこで退職を機に、有り余る時間を有効に使うべく、全国各地でどのような事故が起きているか本ブログで情報提供することにしました。
また同時に、安全に関する最近の情報なども提供することにしました。