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【柔道はじめて1カ月、大外刈りで奪われた命】
柔道部の練習中に福岡市立中学1年の大場さん(女子、当時13歳)を亡くした父親(53)は、悔やみ続けている。
「こんなに柔道が危険だとは知らなかった」
2015年5月、大場さんは練習を終えて帰宅すると「練習で打って頭が痛い」と、夕食を残した。
翌日の朝、体調を聞くと「大丈夫」との返事。
「気分が悪かったら先生に言いなさい」と送り出した。
学校を休ませて病院に連れて行っていれば事故は避けられた、との思いは消えない。
この日の夕方、大場さんは中学の武道場で2年の女子部員の大外刈りで倒れ、頭を強く打って意識不明になった。
救急車で病院に運ばれ、手術を受けたが、意識は戻らなかった。
急性硬膜下血腫のため、5日後に亡くなった。
福岡市教育委員会が公表した有識者による調査報告書によると、事故は技を伝えてから投げる「約束練習」で起きた。
相手は大外刈りと伝えたうえで、スピードを緩めてかけた。
大場さんは運動は得意でなかったが、「警察官になりたい」と柔道部に入った。
柔道を始めて1カ月の大場さんに対し、相手は5年目。
身長は6.5cm、体重も12kg上回っていた。
武道場には顧問の教諭とボランティアの指導員2人の計3人がいたが、事故の瞬間は見ていなかった。
報告書は、「体格差や能力差を把握し、きめ細かな指導を行う必要がある」と指摘。
事故を防ぐため、受け身の練習を3、4カ月以上は行い、大外刈りなど危険性のある技で受け身の練習をしないよう求めた。
日本スポーツ振興センター(JSC)が重大事故に限定して公表しているデータを名古屋大学の内田良准教授が分析したところ、17年度までの35年間に、柔道の部活動や授業などで121人が死亡していた(突然死や熱中症なども含む)。
1年生が74人を占めた。
頭のけがで亡くなったのは121人のうち77人で、大外刈りが最も多かった。
近年は、中学の体育の武道必修化に伴い安全対策が強化されるなどして、重大事故は減っている。
それでも16年度、群馬と栃木の中学生2人が大外刈りで一時重体となった。
娘の事故の後に起きたことに衝撃を受けた大場さんは17年、小中学生に限って大外刈りを禁止すべきだとブログで訴えた。
事故の重さを伝えようと、娘の脳のX線写真も掲載。
昨年11月には、大外刈りの危険性を伝えたいとの思いを込め、柔道のルールを決めている全柔連を相手に損害賠償請求訴訟を起こした。
「二度と重大事故が起きないように、指導者の人たちに安全に対する気持ちを持ち続けてほしい」と願う。
【頭のけが「事後の対応が重要」】
頭のけがは、外見上、骨折や出血がなくても注意が必要だ。
運動中の頭部外傷に詳しい東京慈恵会医科大の大橋洋輝講師(脳神経外科)によると、中でも急性硬膜下血腫は、死亡や重い後遺症につながる頻度が最も高い。
頭痛などがあるのに無理してプレーを続けると、命に関わる危険がある。
脳への衝撃で一時的に意識や記憶を失うなどする脳振盪も、状態が万全でないまま競技を続ければ、二次的なけがで急性硬膜下血腫などにつながりかねない。
ほとんどの脳振盪は回復するが、頭痛やめまい、集中力低下といった症状が続くこともあるという。
これらはラグビー、アメフト、柔道など、選手がぶつかり合うスポーツのほか、野球やサッカーなどで幅広く起きている。
産総研の分析では、急性硬膜下血腫は多い年で160件、脳振盪は1800件ほど起きていた。
深刻なけがを防ぐには、種目ごとの対策はもちろん、体調不良時に運動させないことも必要だ。
大橋さんは、「競技によっては、頭のけがを完全に防ぐのは難しく、事後の対応が重要だ」という。
脳振盪の頻度が高いスポーツでの深刻なけがを防ごうと、日本臨床スポーツ医学会(脳神経外科部会)は「頭部外傷10か条の提言」をまとめ、脳振盪を簡易的に判断する方法を紹介している。
同会の「のじ脳神経外科・しびれクリニック」の野地雅人医師は、「頭を打った後に、頭痛、めまい、吐き気など普段と違う様子が見られたら脳振盪を疑い、指導者がプレーから離脱させ、専門医を受診させてほしい」と呼びかけている。
出典
『中高の事故、半数は部活で 柔道技や打球…頭をどう守る』
https://www.asahi.com/articles/ASM4S7RJ2M4SUUPI010.html
その間、ずっと奥歯に挟まっていたのは、他社の事故情報がほとんど耳に入ってこなかったことです。
そこで退職を機に、有り余る時間を有効に使うべく、全国各地でどのような事故が起きているか本ブログで情報提供することにしました。
また同時に、安全に関する最近の情報なども提供することにしました。