2021年6月22日17時59分にNHK香川から、下記趣旨の記事がネット配信されていた。
大量の産業廃棄物が不法投棄された、香川県の豊島の汚染された地下水をめぐり、有識者会議が開かれ、全体の半分近くの区画で地下水の浄化が完了したことが報告されました。
県は、残る区画の浄化も急ぐことにしています。
およそ90万トンの産業廃棄物が不法に投棄された香川県土庄町の豊島では、おととし7月に、すべての廃棄物の搬出を終えたあとも、県によって、汚染された地下水の浄化対策が続けられています。
22日開かれた有識者らによる会議では、県の担当者が、これまでの対策の結果、全体を9つに分けた区画のうち、4つの区画では地下水が海への排出基準を満たしている状態が継続しており、今後も維持される見通しだとして、浄化が完了したと報告しました。
地下水の浄化対策を含む、豊島の産廃処理に関する特措法の期限は来年度末となっていて、県は残りの区域の浄化も急ぎ、期限内に海への遮水壁などの撤去も含めた一連の対策を完了させたい考えです。
また会議では、残る区画の対策についても意見が交わされ、有識者側から、「期限内に対策を完了させるには、仮に今後、排出基準を満たさない状態になった場合でも、集中的な浄化対策を継続して行うことも含め、県側が今後の方針を示すべきだ」といった意見が出されました。
そして、県側が今後の対策方針を示すことを条件に、残る区画でも排出基準に関する調査を進めることが了承されました。
https://www3.nhk.or.jp/lnews/takamatsu/20210622/8030010352.html
(ブログ者コメント)
この記事を目にしたことを機に、改めて豊島問題を調べ直してみた。
結果、以下の記事が印象に残ったので紹介する。
ちなみに、この記事には記されていないが、1993年から強烈なリーダーシップをもって問題解決に動いたのが、かの中坊公平弁護士だった。
『<記者の目> 豊島 産廃不法投棄事件』
(2017年4月18日 8時47分 毎日新聞)
【ザル法と不作為の果て】
香川県土庄(とのしょう)町の豊島(てしま)に投棄された産業廃棄物の、直島(同県直島町)への搬出が3月28日に完了した。
1990年11月16日、兵庫県警が廃棄物処理法違反(無許可の事業範囲変更)容疑で摘発。
高松支局の県政担当だった私は4日後、香川県の調査団とともに現地に入った。
あれから27年。
当時、戦後最大の50万トンともいわれた産廃不法投棄事件は、規制の厳格化など、その後の国の廃棄物政策に大きな影響を与えた。
当時を知る者として、事件の深層を再考したい。
豊島は、壺井栄の小説「二十四の瞳」で有名な小豆島の西方約3・7キロ、瀬戸内海国立公園内に浮かぶ風光明媚(めいび)な小さな島だ。
摘発後の香川県の調査で、ポリ塩化ビフェニール(PCB)やカドミウムなど、基準値を大幅に上回る高濃度の有害物質が大量に含まれていることが判明した。
「事情を知らない人が見れば、ただのごみの山に見えるかもしれん。
だけど私らにとっては宝の山や。
資源の再利用に貢献しているんや」。
豊島の自己所有地の処分場で、実質的経営者の男(後に廃棄物処理法違反で逮捕)はダミ声で、シュレッダーダスト(自動車の粉砕くず)の山を指し、調査団に訴えた。
さらに、黒く焼け焦げた硬貨を手のひらに広げて私に見せ、「どや、シュレッダーダストを燃やすとお金も回収できるんや」。
周辺には粉砕くずが小山のように盛られ、さびたドラム缶が散乱。
航空機のジェットエンジンのようなものも放置されていた。
廃棄物ではなく有価物だから適法だと、経営者がいくら「宝の山」と強弁しても、私には「ごみの山」にしか見えなかった。
【政治判断に学者知事苦悩】
業者は75年、香川県に廃棄物処理場の建設を申請、77年に前川忠夫知事(故人)から許可内諾を得た。
「日の当たる場所にいる人々には多少がまんしてもらってでも、弱い立場にある人には温かい手をさしのべたい」と常々語った大学教授出身の知事。
住民は島を挙げて反対運動を展開したが、業者は「子供が学校でいじめられている。私らにも生活する権利があるはずだ」と知事の“情”に訴えた。
なおも反対する住民に知事は「豊島は海もきれい、空もきれい。だが、住民の心は灰色か」とまで言ったという。
ただ、その後の取材や知事の伝記「春風秋雨」(95年)からは、知事も単に情に流されたのではなく、ぎりぎりの政治判断に苦悩していたことがうかがえる。
担当課長による知事への説明は、廃棄物処理法上、条件に合致したものは許可しなければならず、有害物質を含もうとも、地元が反対しようとも変わらない、というものだった。
これに対し、知事は「法律は国民のためにある。島を挙げて反対しているものを、法律がこうだからと一方的に許可してもいいものかどうか」と話し、「君ね。六法全書がものを言っているようでは通用しないのでは」と、結論ありきで思考停止した職員をたしなめてもいた。
悩んだ末、知事は法律の基準以上の厳しい条件を付けての許可を決断する。
「これで本人(業者)も生活が保障されるだろうし、住民もわかってくれるだろう」。
前川知事はホッとした表情をみせたと、元側近は証言する。
【占有者次第で有価物にも】
県は78年、産廃処理場ではなく、土壌改良用のミミズ養殖に使う木くずや食品汚泥などの、限定無害産廃の中間処理業の許可を出した。
しかし、この許可が不法投棄の隠れみのになった。
業者は粉砕くずを「有価物」として購入。
それよりはるかに高い運搬費を排出側から受け取り、粉砕くずを焼いて処理場に埋めた。
だが、当時“ザル法”と呼ばれた廃棄物処理法が、この簡単なカラクリを見逃す。
「廃棄物か有価物かは、占有者の意思次第。
占有者が有価物だと主張する限り、それを県が勝手に覆すような判断をすることは難しい。
兵庫県警の摘発は、“法律解釈の違い”だと言わざるを得ない」(香川県環境自然保護課、当時)
さらに、“ザル法”を助けたのは、当の香川県の監督官だった。
地元住民でつくる豊島住民会議が入手した、裁判での担当者2人の供述調書によると、2人は
「県内の廃棄物処理業者でも一筋縄ではいかない人であることから、どうしても強い指導ができなかった」
「今から思えば弱腰の指導をすることなく、適正な措置を行っていればよかったと反省もしている」と供述していた。
業者がこわくて、なすべき仕事を怠ったのだ。
産廃の総量はその後、汚染土壌を含めて約90万8000トンに達した。
国との公害調停成立に基づき、県は2003年4月、産廃を無害化する施設のある直島への搬出を開始。
摘発から搬出完了まで27年、長い歳月を費やした。
法律の不備に行政の不作為が重なり、学者知事の性善説に基づく理想論も結果的に悪用され、最大規模の不法投棄を許したといえる。
廃棄物処理法は、その後、改正が重ねられ、規制や罰則が強化された。
有価物かどうかも客観的に判断されるようになった。
当時を知る人も少なくなり、いま、豊島や直島には食とアートの島として多くの観光客が訪れる。
だが、汚染地下水の浄化は早くても22年度までかかるという。
深い傷を残した事件を重い教訓としたい。
https://mainichi.jp/articles/20170418/org/00m/070/003000c
(2021年12月8日 修正1 ;追記)
2021年12月7日17時28分にNHK香川からは、地下水浄化は7月に完了した、来年1月からの遮水壁撤去に向け前段階の工事が始まったなど、下記趣旨の記事がネット配信されていた。(新情報に基づき、タイトルも修正した)
大量の産業廃棄物が不法に投棄された豊島で、汚染された地下水が海に流出しないようにするための「遮水壁」の撤去に向けた工事が、7日から始まりました。
県は、関連する特別措置法の期限までに、一連の処理事業を終えるため、作業を急ぎたい考えです。
土庄町の豊島では、おととしの廃棄物の搬出完了後も、県が汚染された地下水の浄化を含む一連の処理事業を続けていて、ことし7月には、県側は、地下水の浄化については「完了した」という認識を示しています。
こうした中で、地下水が海に流出しないように設置された、全長340メートルの「遮水壁」と呼ばれる鋼鉄製の壁の撤去に向けた工事が、予定を前倒しして7日から始まりました。
7日は、廃棄物の搬出のために遮水壁に設けられた道路のアスファルトを剥がす作業が行われ、ダンプカーで次々と運び出していました。
県は、来年1月からは、遮水壁を形成する「鋼矢板」を引き抜く作業に移ることにしていて、順調に進めば、3月末には撤去を終えられるということで、国からの補助が受けられる特別措置法の期限となる、来年度末までに処理事業を終えるために、作業を急ぎたい考えです。
県廃棄物対策課の富田室長は、「廃棄物の撤去や地下水の浄化と続いて、事業は終盤を迎えている。国からの支援をいただける来年度末までに、一連の処理事業を終えたい」と話していました。
https://www3.nhk.or.jp/lnews/takamatsu/20211207/8030011698.html
その間、ずっと奥歯に挟まっていたのは、他社の事故情報がほとんど耳に入ってこなかったことです。
そこで退職を機に、有り余る時間を有効に使うべく、全国各地でどのような事故が起きているか本ブログで情報提供することにしました。
また同時に、安全に関する最近の情報なども提供することにしました。