







2025年6月5日11時32分にYAHOOニュース(JBpress)から、下記趣旨の記事がネット配信されていた。
「失敗は成功の母」とは言われるものの、実際には、失敗の危険性の高いことに挑むのは勇気がいる。
特に減点主義が蔓延している日本企業では、あえてリスクを冒さない“無難”志向が強く、それがイノベーションを阻害する要因とも指摘される。
そうした中、グローバルで成功している優良企業の事例を交えながら、失敗を類型化し、失敗を通じて生産性を向上させるためのフレームワークを提供しているのが、『失敗できる組織』(エイミー・C・エドモンドソン著、土方奈美訳/早川書房)だ。
同書の内容の一部を抜粋・再編集し、そのポイントを紹介する。
「ひょっとしたら大丈夫かもしれないが、悪い予感がする」。
誤警報への叱責を恐れることなく、現場の人間が安心して発言できる環境は、どうすれば構築できるか。
トヨタ自動車の事例から考える。
■誤警報を歓迎する
どうすれば、複雑な失敗が起こる前に察知できるだろうか。
多数の要因が過去に例のない特異なかたちで絡み合って生じるという複雑な失敗の性質を考えると、そんな試み自体が無駄に思える。
だが実際にはシンプルで洗練されたやり方がある。
それは誤警報に対する考え方を改めるところから始まる。
トヨタ自動車の工場では、ミスが本格的な失敗に発展する前に作業員がアンドンを引いてチームリーダーに知らせる仕組みがあるというエピソードを思い出してほしい。
チームリーダーとメンバーは、潜在的問題を大小にかかわらず調査し、問題を解決するか、脅威はなかったものと判断する。
アンドンが引かれて生産ラインが停止したケースが12回あったとしよう。
そのうち実際に問題があったのが1回だけだったとしたら、会社は残りの11回の誤警報についてスーパーバイザーの時間を無駄にしたといって怒るだろうか?
まさに、その逆である。
本当のミスではなくアンドンが引かれた場合、それは有益な訓練とみなされる。
誤警報は貴重な学習の機会、どんなミスが起こりうるか、それを減らすために何ができるかを学ぶ場とみなされる。
これは企業文化の話ではない。
実用的アプローチだ。
アンドンが引かれるたびに、長い目でみれば時間を節約し、品質を高める機会が生まれる。
同じようなアプローチが医療現場でも使われている。
緊急対応チーム(RRT)と呼ばれるイノベーションだ。
病室の看護師が患者のちょっとした変化(顔色が悪い、具合が悪そうだ)に気づいたとする。
それは心臓発作のような差し迫った危険の表れかもしれないし、そうではないかもしれない。
そんなとき、数分以内に専門医や看護師を病室に招集し、状況を評価し、必要とあれば治療する仕組みがRRTだ。
RRT導入以前は、看護師は実際に心臓発作が起きたときなど本当の緊急事態しか医師の協力を求めず、それは重篤な状態にある患者を蘇生するためのコードブルー(緊急事態)に直結した。
20年前にオーストラリアで初めて導入されたRRTによって、心臓発作の発生頻度は低下した(73)。
それから10年後、私はマイク・ロベルト、デビッド・エイジャーとともにハーバード大学の学部生ジェイソン・パクの卒業論文を指導した。
優秀賞を受賞したこの論文(74)は、アメリカでいち早くRRTを導入した4つの病院を調査した。
私たちはRRTを曖昧な脅威を増幅させるツールとみなすようになった。
群衆に語りかけるときにはメガホンを使って拡声するように、RRTやアンドンは複雑な失敗の曖昧なシグナルを増幅させる。
増幅は誇張とは違う。
小さな音を聞こえるようにするだけだ。
患者の様子が何かおかしいかもしれないという曖昧な脅威を増幅することが、最終的に心臓発作の減少につながった。
まず看護師(病院のヒエラルキーのなかでは比較的権力の低い最前線の労働者)がたとえば患者の心拍や意識状態の変化など初期の警告サインを報告した場合に無視されるリスクが減った(75)。
RRTがそのような報告を正当なものと位置づけたからだ。
こうして新米看護師でも患者の様子がおかしい、あるいはちょっと具合が悪そうだと思ったら安心して声をあげられるようになった。
みなさんも『オオカミ少年』のイソップ童話をご存じだろう。
羊飼いの少年が「オオカミが来たぞ!」と何度もウソの警告を発する。
ついに本物のオオカミが現れたときには誰も耳を傾けず、結局すべての羊が(バージョンによっては少年も)食べられてしまうという話だ。
世界中の子たちへの教訓は?
もとは「ウソをついてはいけません」だったのかもしれないが、多くの人は「確信が持てるまでは発言するな」という意味だと解釈しているようだ。
悪い予感がしたから声をあげたものの、結局なんでもなかった。
そんな状況に陥って周囲から白い目で見られるのは誰だって嫌だ。
誤警報になったら困るからと、懸念があっても口にしなかった経験はみなさんにもあるだろう。
周囲に笑われるかもしれない、見識不足だと思われそうだと考えたのだろう。
他の人が指摘するのを待っているほうが楽だ。
(引用文献)
こうした一般的な傾向を克服するため、RRTのベストプラクティスには看護師が声をあげるのが妥当か判断するために参照する、初期警告サインのリストの作成が含まれている。
このリストがあることで、看護師は曖昧な直感をもとに声をあげやすくなった。
それが業務手順に従った行動になるからだ。
RRTが患者のベッドに到着したら、本当に患者の容態が悪化しているのか熟練した目で評価できる。
これは単に警戒心を持つというだけではない。
従業員に微弱なシグナルを増幅したり評価したりする権限(アンドンやRRT)を付与するというのは、彼らに全力で業務に取り組むよう促すことに他ならない。
自らの仕事が本質的に不確実なものであることを受け入れ、自らの目と耳と頭脳を信じるよう促すのだ。
優れたRRTシステムは、死亡事故を防ぐことにつながるなら診断に費やす時間は価値ある投資だという姿勢を強く示すために、インクルージョン(包摂性、全員をチームの一員として受け入れること)を重視する。
これから起ころうとしている問題を事前に察知すれば、解決や実害の回避につながりやすい。
スタンフォード大学の調査では、RRTが導入されて以降、コードブルー(心停止に陥った患者を救うための困難な医療行為で、失敗に終わることが多い)は71%減少していた(76)。
また、リスク調整後の死亡率も16%低下していた(*)。
興味深いことに他の研究では、RRTの導入によるパフォーマンス改善は見られなかった。
なぜ、このような差が生じたのだろうか。
*医療業界では研究に参加するグループの品質パフォーマンスを比較する際に、患者の容態の深刻さを考慮してリスク調整を行う。
RRTプログラムを導入すると発表するだけでは不十分だ。
それをどのようなものとして提示するかが重要なのだ。
RRTが招集されるたびに死の脅威に直面する患者が発見されるものと病院スタッフが期待すれば、誤警報が発せられるたびにみんなうんざりして、プログラムはしりすぼみになっていくだろう。
一方、誤警報がチームの技能を向上させるための有効な訓練と位置づけられれば、トヨタと同じように誰もが誤警報はムダではなく価値あるものと感じるだろう(77)。
マイク・ロベルトは名著『なぜ危機に気づけなかったのか:組織を救うリーダーの問題発見力』(英治出版)のなかで、RRTのもたらすマインドセットの変化を「消火活動から煙探知へ」と表現する(78)。
これを、どうすればあなたのチーム、あるいは家族に応用できるだろうか。
誰かが懸念を表明したら、それが最終的に妥当であったか否かにかかわらず、感謝を表明する姿勢を身につけるだけでいい。
確信がなくても声をあげるというささやかなリスクをとった人に感謝をすれば、そういう行動が助長され、それはときに重大な事故を回避するのに役立つだろう。
(引用文献)
https://news.yahoo.co.jp/articles/b97ce7f116097a996abf27f03838c16c00fb23dd


















その間、ずっと奥歯に挟まっていたのは、他社の事故情報がほとんど耳に入ってこなかったことです。
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