2015年11月21日付で読売新聞鹿児島版から、下記趣旨の記事がネット配信されていた。
九州大と大手電機メーカー・東芝が、長島町の風力発電の風車2基を使い、風が不規則に流れる「乱流」などの共同研究を進めている。
平地が少ない日本では、斜面など乱流が起きやすい場所に風車を建てるケースが多く、故障や発電効率の低下を招くとされる。
九州大の内田孝紀准教授(44)(風工学)は、「日本特有の地形や気象条件に合った風力発電を考える一助になれば」と話している。
研究に用いている風車は、東芝が昨年12月、新長島黒ノ瀬戸風力発電所に建てた出力2000KWの2基。
ブレードと呼ばれる羽の先までの高さは、約120mある。
風車にセンサー約300個を付け、風を受けた際の振動や回転する羽のたわみなどを調べ、風の流れと風車の動きに関するデータを集めている。
国内の風力発電は、温室効果ガスの排出削減に関する国際的なルール「京都議定書」が採択された1997年頃から、普及し始めた。
国立研究開発法人「新エネルギー・産業技術総合開発機構」(NEDO)によると、2011年3月の東日本大震災を機に注目され、14年には全国で2034基と、10年前の約2倍、総設備容量は約300万KWと、約3倍に増えている。
一方、発電量は、現在も国内の総消費量の数%程度にとどまる。
平地が少ないため、多くの風車が複雑な地形の山地に設置されており、内田准教授は、「乱流を考慮しておらず、非効率な発電や故障につながっていた」と指摘する。
実際、13年3月には京都府伊根町の太鼓山風力発電所で、支柱の先端に据え付けられた羽や発電装置が落下する事故が起きた。
内田准教授の調査などによると、本来は風速60~70mの強風に耐えられるはずだったが、乱流が金属疲労を助長させるなどし、10数mの風でも、破損につながった可能性があるという。
内田准教授は、「風力発電を『産業』として成長させるため、今回の共同研究を課題克服につなげることができれば」としている。
出典URL
http://www.yomiuri.co.jp/local/kagoshima/news/20151120-OYTNT50058.html
(2016年1月21日 修正1 ;追記)
2016年1月20日付で毎日新聞東京版から、「『乱流』研究、風車の故障防げ センサー300個、多方面からの風の影響測定」というタイトルで下記趣旨の記事が、解説図やグラフ付きでネット配信されていた。
風力発電用の風車が故障したり落下したりする事故が、近年、急増している。
背景には、丘陵地で風が複雑に変化する「乱流」の影響があるとみられる。
事故を防いで風力発電の普及につなげようと、九州大が鹿児島県内で、風が風車に与える影響を精密に調べる研究に取り組んでいる。
日本で商業用の風力発電が始まって30年余。
全国の風車は2000基を超えるが、発電能力は約294万KWで、100万KW級原発3基分にも満たない。
普及の足かせになっている一つが、故障や事故の多さだ。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)によると、風車が3日以上停止した故障件数は、2004〜11年度は年100〜200件ほどで推移していたが、12年度に366件、13年度は415件と、設置数のペース以上に急増。
羽根が落下する事故も、11年度の3件から、12年度は6件、13年度は7件へと増えた。
「まさか羽根が落ちるとは……。ショックでした」。
京都府建設整備課の長砂副課長は、13年3月、府が運営する太鼓山風力発電所(伊根町)で見た光景が忘れられない。
「風車が止まった」との連絡を受けて現場に駆け付けると、オランダ製の重さ45.2トンもの風車の羽根が落下し、ぐにゃりとつぶれていた。
稼働開始は01年で、17年間の耐用年数にはまだ届いていなかった。
事故当時の風速も、発電に適した秒速15m程度だったとされる。
なぜ落ちたのか。
九州大応用力学研究所(福岡県春日市)の内田孝紀准教授(風工学)は、コンピューターで太鼓山に吹く風をシミュレーションして解析した。
その結果、地形の影響を受けて渦を巻くように複雑に吹く「乱流」と呼ばれる風が日常的に吹き、風車の羽根に不均一な力が加わっていたことが分かった。
広く平らな土地に風車が並ぶ欧米と違い、日本は起伏に富んだ地形の中に風車を配置しなければならない。
事故を受けて経済産業省は、電気事業法に基づく技術基準を改定し、風車を正面以外に横方向と垂直方向の風も考慮して乱流に対応できる構造にするよう事業者に求め、国の審査マニュアルも改めた。
内田准教授は、風車メーカーと共同で、15年3月から鹿児島県長島町の風車2基で研究を進めている。
羽根には300個以上のセンサーが取り付けられ、風速や風向きによって羽根が受ける力や振動、ゆがみを測定して、風車の立地選定や運転方法に活用する予定だ。
「乱流を想定した設計、運転をしていかないと、大きな事故につながりかねない」と、内田准教授は指摘する。
出典URL
http://mainichi.jp/articles/20160120/ddm/013/040/003000c
上記記事の関連記事として、日本風力エネルギー学会理事・上田悦紀氏の寄稿文も、下記趣旨でネット配信されていた。
風車の故障や事故の増加は、風力業界にとって重大な問題です。
2000年代半ばに風車の事故が多発しましたが、それは日本が風力発電に不慣れで、台風や雷に対する強度への配慮が足りなかったためでした。
国レベルで日本に適した風力発電の対策を取り、近年は改善の効果が出ています。
乱流に対しては基準を改定して対応していますが、現実に吹く風と風車の強度との関連は解明が難しく、より詳細な研究が望まれています。
九州大の研究は、このニーズにマッチすると言えるでしょう。
風力発電は、日本では、まだ正当に評価されていません。
風力発電はコストが低く、導入も難しくありません。
日本には、欧米のように広大な平地は少ないけれど、丘陵地への建設が進めば、さらに普及します。
そういう意味でも、乱流の研究を進めて適切な立地や運転の方法を確立することは、日本の風力発電の導入拡大に重要です。
出典URL
http://mainichi.jp/articles/20160120/ddm/013/040/004000c
その間、ずっと奥歯に挟まっていたのは、他社の事故情報がほとんど耳に入ってこなかったことです。
そこで退職を機に、有り余る時間を有効に使うべく、全国各地でどのような事故が起きているか本ブログで情報提供することにしました。
また同時に、安全に関する最近の情報なども提供することにしました。