(1/2から続く)
【長男を亡くし、自ら事故予防に取り組む Yさん
(女性、45歳)】
当時5歳だった長男は、4年前、通っていた愛媛県の私立幼稚園でのお泊まり保育の川遊び中、増水で流され亡くなりました。
県や市、文部科学省に事故検証と予防策を訴えましたが、いずれも「再発防止のための検証の権限はない」との回答でした。
幼稚園からは、「話せない」と言われました。
同じ園の保護者と現場に通って、救急隊員や観光客など関係者に聞き取りし、独自に検証委員会をつくり、民事裁判も起こしました。
裁判は、あくまで関係者の法的責任を追及する場だとは理解していましたが、教訓を生かして子どもを守ってほしいという私の強い思いは、そこに託すしかありませんでした。
教育・保育施設などでの事故死、いじめによる自殺、虐待などの分野では、担当省庁ごとに検証制度がありますが、管轄を分けず、すべての子どもの死を一括して検証する組織と制度が必要ではないでしょうか。
今も、どこかで、事故や虐待などで命が失われています。
夫と二人で社団法人をつくり、昨年、「子ども安全管理士講座」を開講しました。
事故時の対応や予防策などを専門家が教え、今月と来月も講座を開きます。
長男を失った悲しみは消えません。
だからこそ、起きるかもしれない死を防ぎたいのです。
【国主導で情報共有を 産業技術総合研究所・首席研究員の西田佳史さん(45)】
情報を一つに集約し分析すれば、なにが危険なのかを抽出できます。
例えば、私たちの研究所では、東京にある国立成育医療研究センターと協力し、病院を訪れた子どものけがの情報を2006年から登録してきました。
約3万人分を読み解くと、自転車の後部座席の子どもの足がスポークに巻き込まれる事故が多いことがわかったので、後部座席下にカバーをつけるよう働きかけ、安全基準が改定されました。
電気ケトルによるやけど事故を受け、倒れても湯が漏れない製品が開発されました。
事故の原因がみえれば、企業や専門家などから知恵が集まり、テクノロジーの力とともに予防策が生まれます。
これは、けがだけでなく、事故などで亡くなった場合も同じです。
しかし、日本では、病院や捜査機関などの組織は、事故状況などのデータ提供に、まだまだ後ろ向きです。
朝日新聞と専門家が分析した子どもたちの記録も、捜査情報ということもあって、法医学者者しか知り得ません。
国が主導的に動いて情報共有できる法律を作り、子どもの死やけがを検証する新たな制度が欠かせません。
メディアも、データが活用されないことでの不利益をもっと探るべきです。
責任の追及だけでは、予防につながりません。
「同じような死を繰り返さない」という合言葉を真に実行する仕組みが必要です。
【これまでの新聞掲載内容】
過去10年間に亡くなった子ども(0~14歳)約5000人の司法・行政解剖の記録を朝日新聞と専門家で分析した結果、約1900人の記録から、今後起こりうる事故や虐待を防ぐための手がかりが見えてきたことを8月28日付朝刊で報じました。
この日から9月にかけ、社会面連載「ある日 突然」(7回)と生活面連載「事故予防を考える」(3回)を掲載しました。
【新たな制度のあり方を今後も考えます】
「小さないのち」を守るために、既存の枠組みを超え、手を取り合う。
やるべきことはシンプルだと、取材を通して感じました。
今後も、子どもに携わる多くの人たちから話を聞き、新たな制度のあり方などを読者の方々と一緒に考えていきたいと思います。
出典
『肩車から落下、車椅子生活に 親子の遊びにも潜む危険』
http://www.asahi.com/articles/ASJ9P5JVHJ9PUUPI003.html?iref=com_rnavi_arank_nr05
(ブログ者コメント)
過去の連載は有料会員限定。
その間、ずっと奥歯に挟まっていたのは、他社の事故情報がほとんど耳に入ってこなかったことです。
そこで退職を機に、有り余る時間を有効に使うべく、全国各地でどのような事故が起きているか本ブログで情報提供することにしました。
また同時に、安全に関する最近の情報なども提供することにしました。