2021年2月17日16時12分にNHK兵庫から、下記趣旨の記事がネット配信されていた。
化学物質を扱った技師が公務災害に認定された宝塚市立病院で、病理検査室の作業環境の調査が不適切な方法で行われていたことが分かりました。
宝塚市立病院では、病理検査室で勤務した技師が化学物質によるシックハウス症候群を発症し、去年7月、民間の労災にあたる公務災害と認められました。
装置のフィルターが目詰まりして排気量が低下し、室内で化学物質のホルムアルデヒドの濃度が上昇したことが原因の1つと考えられ、病院の依頼を受けた第三者調査員が、作業環境の調査方法に不備がなかったかなどを調べて報告書にまとめました。
それによりますと、検査室は法律に基づいて半年に一度、作業環境の調査が行われていましたが、おととし9月以前はその方法が適切でない場合があったとし、平成23年3月からの少なくとも2年半は不正だったとしています。
報告書では「担当者は不正行為であるとの認識が希薄で、ほかの職員から問題であることを指摘されても直ちにやめなかった。上司は不正行為の存在すら知らなかった」と指摘し、調査への理解不足と、職員の健康保持に関して意識の欠如があったと思われるとしています。
また、ホルムアルデヒドの排気や換気のための装置は、少なくとも過去2回の定期自主検査では規定された性能を満たしておらず、去年に設置された新たな装置で規定を満たすようになったとしています。
公務災害に認定された技師は「病院に不正行為を指摘してきましたが、証明されてよかったです。2度とこのようなことが起こらないよう、職員の声が届く職場になることを願います」とコメントしています。
https://www3.nhk.or.jp/lnews/kobe/20210217/2020012103.html
2月18日5時30分に神戸新聞からは、半年毎の作業環境測定の直前に換気装置を作動させるなどして室内低濃度化を図っていたなど、下記趣旨の記事がネット配信されていた。
宝塚市立病院(兵庫県宝塚市小浜4)の有毒物質を扱う病理検査室で排気装置の不調などが放置され、女性技師が「シックハウス症候群」となって公務災害に認定された問題で、同室担当の男性副主幹が、化学物質の濃度測定で、直前に室内を換気するなどして低濃度となるよう操作していたことなどが17日、分かった。
同病院が指名した第三者委員の報告書で明らかになった。
検査室ではホルマリン(ホルムアルデヒド水溶液)などの有毒物質を使用。
技師は2019年8月にシックハウス症候群と診断され、昨年7月、公務災害に認定された。
調査は、有識者2人が昨年9~12月、職員への聞き取りなどをした。
報告書によると、少なくとも2011年3月から2年半、法律に基づく半年に1度の外部事業者による調査に際し、当時主査だった副主幹が前日や早朝に換気装置を稼働させ、濃度が高まるような作業の中止を指示した。
他の職員らは不正を指摘したが、是正されなかった。
報告書は、「不正行為による重大な悪影響」で環境整備が遅れたと指摘。
副主幹は「測定の準備だった」などと答えたという。
また報告書は、排気装置の不備についても、定期的なフィルター点検で「公務災害の発生を予防できた可能性がある」とした。
病院は「管理体制が不十分だったことを反省する」と説明。
関係職員の処分を検討するとした。
技師は「過失による明らかな人災。一人の人生を大きくゆがめた事実を強く認識してほしい」と批判。
今後、謝罪や補償を求めるという。
https://www.kobe-np.co.jp/news/hanshin/202102/0014087538.shtml
(ブログ者コメント)
以下は関連情報。
〇昨年2020年9月22日付で全国労働安全衛生センター連絡会議HPに、被害者がシックハウス症候群を発症した経緯など、下記趣旨の記事が掲載されていた。
・・・・・
経緯詳細が、ひょうご労働安全衛生センター機関誌「ひょうご労働安全衛生」9月号への寄稿で明らかにされた。
本件の原因、背景には、使用者である病院側の作業環境測定不正や多くの法令違反、職場の声を無視し続けてきた実態があった。
・・・・・
被害者は4年ほど前(2016年)から、病理検査室に出勤すると鼻水が出るという症状があった。
2019年7月下旬からは、鼻水・のどの痛み・目の痛みといった症状が日に日に強く現れだした。
同年8月8日の出勤時、病理検査室内の切り出し※室入り口付近に行くと、粘性の鼻水が大量に出だし、のどに違和感を覚えた。
また、他の職員も同時期から頭痛を感じていたことが判明した。
8月30日、アレルギー科で「揮発性有機化合物(ホルムアルデヒド、キシレン等)によるシックハウス症候群」、「約1ヵ月の自宅療養が必要」と診断され、医師からは「今後、日常生活(引越し、家の新築等)でも症状が出る可能性があるので注意が必要」と言われた。
被害者の通報により、2019年8月26日に西宮労働基準監督署が立ち入り検査を行い、市立病院は同年9月13日に労働安全衛生法に基づく是正勧告と改善指導を受けた。
被害者は労働組合とともに事故に至った不正行為を含む事実関係の確認と公表、適切な謝罪を求めてきたが、病院側は不都合な事実を隠蔽しようとし、被害者に向き合おうとしてこなかった。
それどころか、被害者の訴えに対して「環境を整備(改修工事)するのに、それ以外に何の問題があるのか」とし、他の職員に対して事実関係を説明することもなかった。
・・・・・
この事件の本質は、被害者らの職場改善要望が長年無視され、作業環境測定(ホルムアルデヒド等の濃度測定)の不正が続けられ、排気装置の不具合が放置されてきたことにある。
被害に至った原因として病院側は、
1. 当時、被害者の作業量が一時的に増加したこと
2. 換気装置の不具合により一時的に作業環境における化学物質の濃度が上昇したこと
として、一過性の問題という認識を示した
・・・・・
https://joshrc.net/archives/6174
〇2年前2019年11月4日付でChem Stationからは、検査室排気装置の風速が基準値以下だったなど、下記趣旨の記事がネット配信されていた。
西宮労働基準監督署が立ち入り検査を行った結果、女性が働いていた病理検査室の排気装置の風速が法律の基準を下回り、十分に機能していなかったことが分かったということです。
そのため労働基準監督署は、病院に対して職場環境を改善するよう是正勧告しました。
合成を行う研究室には、排気装置の一種であるドラフトチャンバーが必ず設置されていると思いますが、各種法律によって必要な風速が決まっていて、自主検査を一年に一回実施し記録を保存することになっています。
ドラフトチャンバーは、囲い式フードに分類され、指定の開口部を8点あるいは16点に分割して風速を測定して下記の値以上でなくではなりません。
有機溶剤だけであれば0.4 m/sですが、ホルムアルデヒドやジクロロメタンなどの特化物を使う場合には0.5 m/s、ニッケルやコバルト無機化合物といった粒子状の特化物を使う場合には1.0 m/s必要になります。
風速が規定以下の場合、下記のような不良が考えられます。
・ドラフト内部の物が吸気を妨げている:ドラフト内部を片付ける。
・吸気フィルターが目詰まりしている:フィルターを交換する。
・モーターのファンベルトが切れている:ファンベルトを確認する。
・ファン異常:ファンの点検を依頼する
風速に異常がなくても、ドラフトのサッシが常に全開では、風速が十分に出ずに作業者が有機溶媒を吸い込んでしまいます。
ましてや、ドラフトの外で有機溶媒を取り扱うことなど、もってのほかです。
これから研究が佳境に入り、期限との戦いを強いられている人もいるかもしれませんが、頭痛やめまいといった有機溶剤による健康障害を感じたら、病院を受診するとともに、迷わずラボメンバーや先生と相談し、ドラフトのマナーを改善したり、ガスマスクの導入をすることが必要だと思います。
なお、従来型のドラフトチャンバーは常に一定量の空気を吸い込んでいるため、たくさんのドラフトが稼働している部屋では大量の空気が吸われて、エアコンが効きにくいことがあります。
そこで、ドラフトのサッシの開度に合わせて吸い込み量を調整し、空調と排気にかかる消費電量を低減するシステムが開発されています。
サッシが全開で一定時間たつとアラームが鳴り、サッシを閉めることを促すシステムもあります。
既存のラボでドラフトチャンバーを取り換えることはありませんが、ラボを新設する場合には、作業者のことを考えて、このようなシステムを導入してほしいと思います。
https://www.chem-station.com/chemistenews/2019/11/sickhouse.html
その間、ずっと奥歯に挟まっていたのは、他社の事故情報がほとんど耳に入ってこなかったことです。
そこで退職を機に、有り余る時間を有効に使うべく、全国各地でどのような事故が起きているか本ブログで情報提供することにしました。
また同時に、安全に関する最近の情報なども提供することにしました。