2020年8月10日19時0分にYAHOOニュース(ベストカー)から、下記趣旨の記事がネット配信されていた。
2020年7月中旬、高速道路で起こったアクシデントを記録した映像が朝の情報番組でとりあげられ、そのコメントも合わせて、ネットニュース界を賑わしたことをご存じだろうか?
トラックの荷台に積まれていた畳が、走行風で煽られたかと思いきやフワリと浮き上がって荷台から離れ、後続車のフロントガラスを直撃した交通事故である。
TV番組では、この場合の過失割合は、過去の判例に倣うと前走車が60、後続車が40で、状況によって10から20程度それぞれ増減すると紹介。
司会者もコメンテーターも、後続車に自分を想定している(トラックに乗って荷物を運んでいる自分は想定できないからだろう)ことから、後続車の過失が意外と大きいことに、不満を訴える意見であった。
100:0、つまり後続車には過失がないのではないか、という意見で一致していた印象だ。
たしかに、後続車のドライバーは普通に走行していただけで、特に落ち度は感じられないから、同情する意見もある。
そこで、この高速道路の落下物問題の真相はどうなのか?
モータージャーナリストの高根英幸氏が解説する。
【どのように対処すべきか2要素に分けて考えてみる】
交通事故に対するドライバーの責任についての基本的な考え方と、道路上の落下物による事故に対してどのように対処すべきかの2要素に分けて考えてみたい。
まず、交通事故に対するドライバーの責任であるが、車両を運転している以上、交通事故が起これば何らかの責任を負うことになるのは避けられない。
信号待ちなど、完全に停車している状態を除けば、ドライバーは運転免許を交付され、クルマを走らせている時点で道路交通法を理解して、交通の安全に務めなければならないのだ。
道交法のすべてを教習所で教わる訳ではないから、ドライバーにそこまで責任を追及するのは酷だ、という意見もあるだろう。
しかし自動車運転教習所は、ドライバーが道路を走るために必要な技術や知識のすべてを教えてくれるところではない。
むしろ、最低限の知識と技術を教えて免許取得を手助けしてくれるだけの施設だと思うべきだ。
このあたりは、コロナ禍による自粛と経済活動との折り合いにも似たものがあるが、日本の基幹産業の一つである自動車産業を支える1要素としても、教習所は一定のペースでドライバーを育て、世に送り出すことが要求されてきたという背景があるのだ。
したがって、「教習所で教わっていない」は、言い訳にならないことを覚えておくべきだ。
本来、ドライバーは「自動車六法」(クルマに関する法律だけを集約した法律書)に目を通しておくくらいの責任感をもって、運転に臨まなければならないのである。
操作を誤れば人を殺めてしまうことにもなりかねない機械だけに、便利で快適な乗り物として気軽に扱うだけでなく、常に慎重な姿勢で運転することが必要なのである。
【高速道路の落下物による交通事故の過失割合が60:40な理由】
今回は、道路上の落下物に関する交通事故に絞って考えていくが、高速道路上での落下物による交通事故の場合、過失割合は過去の判例を参考にすれば、確かにTVで報じられた通り、前走車、後続車の割合は60:40となる。
交通事故や交通違反に強い中央総合法律事務所の荒井清壽弁護士に、このあたりの事情を訊いてみた。
「実は、高速道路上での落下物の場合、一般道よりも前走車のドライバーの責任は重くなっているんです。
それは、高速道路上では積載物の転落防止義務のほか、積載物の転落による事故を防止するために積載状態を点検する義務が課せられているからです。
これは、後続のドライバーが高速道路上での落下物を回避することが困難であることも考慮されています」。
つまり、一般道の場合は、落下物による交通事故の場合、50:50あたりが基準になっているということだ。
速度が遅い一般道では、落下物に気付いて急停止したり、進路を変えて避けることが高速道路よりも容易なことから、後続車のドライバーにも同程度の責任があるのが基本なのである。
それにしても、今回の畳の落下事故は、後続のドライバーにとっては不運としか言いようがないような状況である。
問題の動画を見て、荒井弁護士は前述の過失割合の前提条件について補足してくれた。
「この落下物による事故の過失割合では、落下物はすでに落下して静止した状態にあることと、後続のドライバーが軽度な前方不注意であることが前提条件になっています。
今回のケースでは、状況がかなり異なるのです」。
つまり、後続のドライバーの過失は判例よりも軽くなることが考えられると言う。
さらに、事故の状況から、過失割合を補正できるポイントを挙げて解説してくれた。
「動画を見ると車間距離が若干短いように思えるのですが、しかし、いきなり畳が飛んできたら、人間の反射神経では車間距離を適切にとっていても避けるのは困難です。
よって、軽度の前方不注意にはならないので、過失を10ポイントマイナスすることができると思います。
また、追い越し車線上で起きていることから、走行車線上より速度が高いことが明らかで、後続のドライバーが回避することはさらに困難です。
これは、過失を10ポイントマイナスさせることができます。
さらに、前走車の積載方法が著しく不適切であり、後続車が発見や回避することは困難であり、後続車に及ぼす危険性を鑑みれば、後続車側の過失を15~20ポイントマイナスするべきではないかと考えられます」。
ということは、過失割合は後続車側が30~40ポイント軽減される可能性があり、90:10から100:0にまで過失割合を改善するよう示談交渉することが可能だと語ってくれたのである。
100:0は裁判では引き出せないかもしれないが、損害保険会社との交渉では、相手側の保険会社から全額修理費用を支払わせることは不可能ではなさそうだ。
【交通事故の示談交渉には弁護士を使うと有利になるワケ】
こういった示談交渉は当事者だけでも行なえるが、個人でここまでの内容にもっていくことは、まず難しい。
保険会社はなるべく保険金の支払いを抑えたいというのが基本的な姿勢だからだ。
「また、保険会社の担当者には裁量権が与えられていないので、判例通りの過失割合しか認めてもらえない場合が大半です。
個人が保険会社と交渉しても、過失割合を判例よりも軽減することは難しいでしょう」(荒井弁護士)。
そこで頼りになるのが、弁護士なのである。
一般的に交通事故の過失割合について争う場合、弁護士が扱うだけで過失割合が10ポイント下がると言われている。
これは、法律のプロが扱うことによって示談交渉のレベルが上がることから、10ポイントは改善されるのだ。
「被害者側が弁護士を立てて交渉すると、保険会社も担当が弁護士に代わります。
ここで裁量権のある担当者となることで、過失割合の交渉が進むのです。
というのも、弁護士は最後の手段に裁判がありますが、保険会社としては、裁判はなるべく避けて示談にしたい。
そのため、被害者側に有利な示談交渉となることが多いのです」(荒井弁護士)。
こういった考えも、弁護士によっても判断は変わるだろう。
したがって、荒井弁護士のように交渉力の高い弁護士を味方につけることが、交通事故の民事賠償の解決に関しては重要な要素なのである。
また落下物と接触していなくても、それを回避したことで事故が起こった場合も、回避するためにとった運転操作が結果として事故に結び付いたと因果関係が認められれば、落下物の所有者に過失を求めることもできる。
こうした証明や交渉も、素人の個人ドライバーでは、まず不可能。
弁護士の出番となる。
【車両保険は過失なくても利用すれば等級ダウン】
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【落下物との衝突事故を防ぐためにはどうするべきか】
高速道路の出入りがETCによりノンストップ化したこともあって、荷台を覆っていない、荷物むき出しの危ないトラックは、昔よりも増えたような印象を覚えることもある。
高速道路を走行していて、危ない積み方をしているトラックなどに気付いたら、まずは離れること。
無理に追い越そうとして後ろで粘ろうとせず、一度離れてから追い越すチャンスを待つことだ。
間に別の車両が入ってくれば安全とは限らない(他人を楯にするのもどうかとは思うが)し、近くを走っているだけで、周囲のクルマ共々被害に遭う可能性が高まる。
そして、自動車保険は弁護士特約を必ず結んでおくこと。
これは、無料であったり、有料でも低額(数千円)なので必ず入っておこう。
交通事故以外のトラブルで弁護士に依頼するケースでも使える場合もあるから、個人賠償保険と並んで、必須の保険特約であることを覚えておいてほしい。
また、あおり運転の厳罰化によって自衛のためにも必需品となったドライブレコーダーは、こうした落下物による事故の際にも役に立つ。
イザという時に壊れたり、誤作動では困るので、SDカードのグレードを含め、品質にこだわって確かな製品を選び、装着しておくことも必要だろう。
https://news.yahoo.co.jp/articles/d32701003c73bdfb78f169c9355b7e3da5c49547
(ブログ者コメント)
畳落下事例は本ブログでも紹介スミ。
その間、ずっと奥歯に挟まっていたのは、他社の事故情報がほとんど耳に入ってこなかったことです。
そこで退職を機に、有り余る時間を有効に使うべく、全国各地でどのような事故が起きているか本ブログで情報提供することにしました。
また同時に、安全に関する最近の情報なども提供することにしました。