2018年2月18日に掲載した元記事がブログ運営会社の字数制限に抵触しましたので、ここに新情報を第2報修正1として掲載します。
第1報は下記参照。
https://anzendaiichi.blog.shinobi.jp/Entry/8045/
(2021年3月5日 修正1 ;追記)
3年前、2018年6月12日付で、フレコンの沿面放電か堆積部のコーン放電で粉じん爆発が起きたらしいという事故報告書が公表されていた。(新情報に基づき、第1報ともどもタイトルも修正した)
以下は報告書のポイント記述。
P4)
本農薬原体製造プラントでは、原料である イソフタロニトリル(IPN) を、塩素ガスを用いて塩素化することによって農薬原体テトラクロロイソフタロニトリル(TCIPN) を製造している。
P5)
発災時、農薬原体製造プラントはメンテナンス期間中で、塩素化反応は行われていなかった。
そのため、機器類の稼動はなく、翌日からの稼動開始に合わせ、一部機器(溶融器から反応器まで)を 200 ℃ の熱媒で予熱していた。
また、原料及び農薬原体は全て抜き取られており、塩素ガスは遮断していた。
当日は、空の原料ホッパー(V-102)に IPN 10 トンを充填予定であった。
P6)
3.3. 発災設備の概要
発災設備である原料ホッパー(V-102)は 1969 年12 月に設置された円筒円錐型タンク(ホッパー)であり、反応前の原料を貯蔵するための設備である。
P8)
原料ホッパー(V-102)の周辺設備としては、投入口からの粉じん飛散防止のために、ブロアー(B-102) が設置されており、ホッパーからブロアーまでの間にバグフィルター(F-102)が設けられている。
P9)
3.4. 原料投入作業の概要
(4)原料ホッパー(V-102)投入口バイブレーターとブロアーのスイッチを入れる。
バイブレーターと ブロアーの使用前点検は行わない。
ホイストのみ点検している。
(5)1 つ目の FIBC を吊り上げ、投入口に乗せる。
乗せ方(加重のかけ方)には個人差がある。
(6)原料ホッパー(V-102)投入口にある内袋開封用の扉を開け、紐を解く。
紐が解けないときは FIBC を少し上げて(手が入るくらい、40-50 cmくらい)から紐を解くこともある。
頻度はそれほど多くなく、1 日に 1 回あるかどうかである。
(7)紐を解いていきなり IPN が出てくるということはない。
IPN が出てくるのを確認してから FIBC を下に戻すが、出てきそうなときは袋を押さえるので投入口からあふれることはない。
(8)紐が解ければ原料ホッパー(V-102)投入口にある内袋開封用の扉を閉め、FIBC を少しゆすって、 IPN が出始めればそのまま中身が出て行く。
(9)IPN が出始めたら間もなくホイストを上げる。
量が少なくなるのに合わせ、ホイストを上げていく。
(10)内袋のしわなどに残っている場合には最後にゆすって落とす。
(11)内袋を外し、内袋は廃棄用ビニール袋に入れ、FIBC は
畳んで作業終了後に1 階に戻す。
P13)
通常の作業としては、10 袋荷揚げ後に投入口右側上段の FIBC から IPN を少量サンプリングした後に 投入を開始する。
協力会社からの聞き取り情報では 1袋の投入作業には 5-10 分程度かかるため、爆発は1 袋目投入中に発生したと考えられている。
ホイストのフックの位置から原料投入作業中に爆発・火災が発生したと推測される。
P22)
発災時ホイストフックは投入口の真上にあり、投入口上端から高さ 1400 mm の位置であった(図 5-1)。
投入が進むにつれて FIBC 位置を上げていくが、 協力会社従業員によると、この高さは投入前半くらいの位置であるとのことから、FIBC から IPN を原 ホッパー(V-102)に投入する前半くらいまでのときに爆発・火災が発生したと推測される。
P23)
発災時にブロアー(B-102)が稼動していたかどうかは、発災後のブロアー電源スイッチの状況からは 確認できなかった。
しかし、横浜工場従業員の目撃情報として、爆発直後はブロアー排出口から炎は見えなかったが、爆発 20-30 秒後にブロアー排出口から、西風に逆らいほぼ水平に 30-40 cmの炎が出ていたことを確認している。
その後、西風に逆らい炎が水平に出続けていたことから、稼動していたブロアーが、ホッパー内やフィルター横板が爆発により開いていたところから未燃のIPN を吸い込み、ブロアー排出口から炎として排出されたと考えられる。
以上のことより、ブロアーは稼動していたと推定している。
P29)
(3)着火源
① 作業者の帯電
被災した従業員は協力会社貸与の制服を着用していた。
作業着は非導電性であり、安全靴は帯電防止されたものであるが、劣化していたために導電性は悪かった。
しかし、着衣に帯電した静電気からの放電では粉じんに着火する可能性はほとんどない。
また、ブロアーの稼動により作業者の周辺に粉じん雲は発生しないことから、作業者及び作業着の帯電は今回の着火源となる可能性はなかった。
P31)
FIBC は静電気対策がなされていないタイプ A のものを使用していたこと、及び内袋は非導電性のPE 製のものを使用していたことで、粉体との摩擦で発生した静電気により内袋が帯電し、絶縁破壊により放電することで沿面放電の要因と成り得た可能性がある。
また、IPN 粒子が摩擦により帯電して放電が発生したことでコーン放電の要因と成り得た可能性があ る。
P33)
発災時の IPN の投入量は 100 kg から 300 kg の間であったと推定した。
当日ロットの粒度分布より、74 mm 以下の粒子径割合は 0.34 重量%であることから、ホッパー内に均一に拡散した場合の粉じん濃度は、16.2~48.6 mg/L 。
爆発下限界濃度 30 mg/L には達しないが、粉じんはホッパー内部で均一に拡散するわけではないため、ホッパー内部で部分的には爆発下限界濃度を上回る粉じん濃度となる可能性が高い。
P34)
IPN 63 mm pass 品 を用いて IPN 最小着火エネルギー(インダクタンスなし)を試験したところ、以下 の結果を得た。
最小着火エネルギー(Emin) : 1 mJ<Emin<3 mJ
統計的最小着火エネルギー(Es) : 1.6 mJ
P36)
(4)内袋の絶縁破壊電圧
PE 内袋サンプルを用いて IEC 60243-2 (2001)に準拠し、試験を実施した。
試験結果を表 5-18 示す。
最小が 7.5 kV、最大が 16.1 kV であり、平均すると概ね 12~13 kV であった。
沿面放電は 4~6 kV 以上の絶縁耐力を持つ素材であれば発生すると言われている。
この素材の場合はその数値を大きく超えるものであるため、十分に帯電すれば沿面放電を発生する条件が整うことを意味している。
(5)沿面放電実験
PE 内袋の素材を用いたフィルムによる沿面放電からの IPN 着火試験を実施した。
試験には 63 mm pass 品 IPN を使用した。
PE フィルムが正極性に帯電をした場合、PE フィルム 1 枚では沿面放電は起きるが着火には至らず、燃焼によるわずかな発光が見られるのみであった。
そのため、PE フィルムを 2 枚重ねとして実験を実施したところ、沿面放電による IPN 粒子への着火が確認された。
一方で、PE フ ィルムが負極性に帯電した場合は 1 枚の PE フィルムでも着火した。
粉じん爆発を起こすためには空間 37 に粉が舞い上がる必要があり、今回の実験では、沿面放電の放電エネルギーによりまず粉が舞い上げられ、その後に余ったエネルギーで着火した。
実際には、常に粉じん雲が形成されているため、沿面放電 が発生すればその粉じん雲に着火する可能性が高い。
(ブログ者コメント)
〇写真のように、フレコン排出口は箱の中に納まるようになって
おり、箱の中で舞った粉じんはブロワーでバグフィルターに
引っ張っていたということらしい。
〇最小着火エネルギーが1~3mjというのは、かなり爆発しや
すい物質。
爆発事故が起きてから、爆発しやすい物質を取り扱っていたことを知る・・・それはブログ者も現役時代に経験したことだ。
〇報告書に当該物質の粒度分布は見当たらなかったが、74μm以下が0.34%だったこと、また投入実験の写真(p34P)を見ると粉がモウモウという感じではないことから考えると、粉体を取り扱っていたという認識はなかったのかもしれない。
〇ブログ者は、作業中の粉じん爆発は、まず人体帯電を疑うクセがついている。
今回のケースでも、投入口扉を開けている時にたまたま粉じんが舞って・・・という事態も考えたのだが、p16の写真を見ると投入口扉は閉まっている。
よって人体帯電説は取り下げた。
(2/2へ続く)
その間、ずっと奥歯に挟まっていたのは、他社の事故情報がほとんど耳に入ってこなかったことです。
そこで退職を機に、有り余る時間を有効に使うべく、全国各地でどのような事故が起きているか本ブログで情報提供することにしました。
また同時に、安全に関する最近の情報なども提供することにしました。