2020年10月9日16時0分に朝日新聞から下記趣旨の記事が、グラフや写真付きでネット配信されていた。
鉄道の大幅な遅れや運休に動物が関連する例が急増している。
中でも全国的に目立つのが、シカが絡んだ事故だ。
運行への影響や犠牲になる動物を減らすためにどうすればよいのか。
シカ対策の最前線を見た。
国土交通省が毎年まとめている「鉄軌道輸送の安全に関わる情報」という資料がある。
運休や30分以上の遅れが出た例を「輸送障害」と位置づけ、年度ごとの推移を集計している。
これによると、2019年度の輸送障害は前の年より48件少ない5665件だったが、うち動物が原因となったものは822件と、逆に118件増えた。
年間の輸送障害は例年、4千から6千件の間で推移しているが、動物が絡むものは増加傾向が明らかだ。
09年度には224件だったが12年度に514件となり、最近は輸送障害全体の1割以上を占めるようになった。
なぜ増えたのか。
公益財団法人鉄道総合技術研究所(東京都)で生物工学を研究する志村稔さんは、「多くのケースで原因となっているシカの個体数が増えた」と、その理由を説明する。
環境省の推計では、ニホンジカの頭数(北海道を除く)は1989年度の31万頭程度(中央値)から年々増え続け、14年度には289万頭程度(同)にまでなった。
同省によると、明治時代に乱獲で激減したニホンジカは捕獲が規制されるようになり、戦後しばらくして減少に歯止めがかかった。
もともと繁殖力は高い動物だが、
▽中山間地の過疎化による耕作放棄地の拡大
▽積雪量の減少
▽造林などでエサとなる植物の増加▽狩猟者の減少
といった要因が重なり、増加に転じたと考えられている。
国は駆除などの対策を強化しており、ここ数年は、やや減る傾向にあるとされる。
志村さんは、「農村部の過疎化で人と野生動物がすむ区域の境目があいまいになり、シカの生息域が拡大して里に近づいている。頭数が減っても事故はなかなか減らない」とも指摘する。
その言葉を裏付けるように、環境省の14年の調査では、シカの生息域は36年前の2・5倍となったことがわかった。
【シカネット、害獣王…見つからぬ「決定打」】
シカ対策の現場はどうなっているのか。
7月上旬、岩手県釜石市を訪れた。
山あいを走るJR釜石線の線路脇には、体長1メートルに満たないシカの死骸があった。
「昨夜はねられたシカです」
同行したJR東日本盛岡支社の社員が説明してくれた。
シカは目を開き、青空をうつろに見やっていた。
毛並みは美しいままだったが、すでにたくさんのハエが集まっていた。
盛岡支社によると、前夜にワンマン運行の1両編成がシカとぶつかった。
運転士がすぐに死骸を線路脇に寄せ、運行を再開した。
遅れは6分だったという。
シカの体を列車下に巻き込んでしまったような場合は、引っ張り出すなどの手間がかかる。
保線作業員が昼夜を問わず現場に出動するが、遅れはそれだけ大きくなる。
死骸は産業廃棄物として処理されるという。
シカ以外の動物では、違った手順が必要になる場合もある。
衝突したのがクマの場合、運転士らに危険が伴うため、地元の猟友会に連絡して駆除してもらう。
深夜でハンターが駆けつけられなければ、JRの社員が保線車で見回り、周囲にクマが潜んでいないかを確認することもある。
ニホンカモシカは特別天然記念物のため、死骸は自治体へ引き渡す手続きが必要となる。
盛岡支社は、岩手県や青森県の山間部を走る路線などを管轄。
JR東日本の中でも動物と列車の衝突などによる遅れが最も多い。
19年度は、30分未満の遅れも含め、前の年より6件多い523件の輸送障害が発生。
うち8割の原因となったのがシカだった。
「対策をして、横ばいにとどまっているという認識だ」と支社の担当者は話す。
どうやって事故を防いでいるのか。
シカが出没するのは夜間が多い。
運転士は経験から出没しやすい場所を把握している。
シカを見かけると、徐行してライトで照らしたり警笛を鳴らしたりしているという。
「避けられるかは運転士の反射神経次第だ」。
社員の一人は苦笑いを浮かべて語った。
時間に正確な運行が求められ、運行ダイヤを「商品」と捉える鉄道会社にとって、運休や遅れが日常的に生じる事態は極力避けたい。
各社はシカ対策で試行錯誤している。
盛岡支社では、シカとの衝突が多発する地点の線路脇に、侵入を防ぐための高さ約2メートルの「シカネット」を設けた。
シカがにおいを嫌がるというライオンのふんを混ぜた薬剤もまき、苦手とされる赤と緑の光を点滅させる機械「クルナレーザー」も導入している。
宮城県内などを管轄する仙台支社は、青色の発光と超音波を発する「害獣王」という装置を採用した。
JR西日本は、シカが鉄分をとるために鉄製のレールをなめにくることに着目。
線路から離れた場所に鉄分とミネラルを配合した固形の誘引材を置き、一定の効果を上げたという。
大型のエゾシカが多い北海道では、JR北海道が約100キロにわたり柵を設けている。
ただ、沿線は約2500キロと長大で、カバーするにも限界がある。鉄道総研もこうした状況に対応するため、シカが仲間に危険を知らせる声と犬のほえ声を組み合わせた手法の開発を進めている。
様々な対策を打ち出しても、決定打は見つかっていない。
費用やメンテナンスに加え、効果が持続する期間なども課題となる。
JR西の広報担当者は、「動物側に慣れがあったり、地域によって効果があったりなかったりもするが、努力を重ねている」と話す。
【輸送障害、カラスやネズミ原因も】
動物が絡む輸送障害の内訳はどうなっているのか。
全国の鉄道会社からの報告を国がまとめた「運転事故等整理表」を分析した。
18年度の704件を見ると、動物別ではシカ(ニホンジカ、エゾシカ)が374件(53・1%)と過半数を占め、次いでイノシシが123件(17・5%)。カラスなどの鳥類49件(7・0%)、カモシカ44件(6・3%)、クマ23件(3・3%)と続いた。
地域では、東北が149件で最多だった。
近畿(121件)、北海道(115件)も100件を超え、中部92件、関東70件、中国66件、九州50件、北信越36件となっていた。
5件だった四国と、モノレールしかなくゼロだった沖縄を除けば、地域に極端な偏りは見られなかった。
前年度も傾向はほぼ同じだ。
輸送障害の原因には、衝突以外に「動物が斜面を踏み荒らしたことによる落石」、「カラスの置き石」なども含まれる。
ネズミが原因で大幅なダイヤの乱れにつながった例もしばしばあった。
18年6月、JR高槻駅(大阪府高槻市)構内でポイントが切り替わらなくなるトラブルが起きた。
124本が運休し、最大約5時間の遅れが出た。
ポイントを切り替える機器の電源ケーブルをネズミがかじり、傷つけたことが原因と判明。
JR西日本はケーブルを取り換え、運行を再開した。
JR黒井村駅(山口県下関市)構内でも翌月、ポイントが切り替わらなくなった。
原因はカメ。
ポイントに挟まると工具を使ってもなかなか取れず、列車に遅れが出た。
同様の事例はしばしば起きており、JR西日本は須磨海浜水族園(神戸市)の協力を得て、再発防止策を考案した。
ポイントの手前の地点にU字溝を設け、カメを落下させるという方法だ。
効果も上がっているという。
https://www.asahi.com/articles/ASNB86TZXNB5UTIL031.html
その間、ずっと奥歯に挟まっていたのは、他社の事故情報がほとんど耳に入ってこなかったことです。
そこで退職を機に、有り余る時間を有効に使うべく、全国各地でどのような事故が起きているか本ブログで情報提供することにしました。
また同時に、安全に関する最近の情報なども提供することにしました。