2022年3月9日7時0分にYAHOOニュース(日経ビジネス)から、下記趣旨の記事がネット配信されていた。
部下がミスをするのは注意が足りないから、仕事への適性が欠けているから、と考える上司が多い。
しかし、注意喚起でミスは無くならないし、そもそも、能力や心構えとミスに関係性はないと行動科学マネジメントの第一人者・石田淳氏は語る。
ミスを生むのは日常のよくある言動なのだ。
石田氏の著書『無くならないミスの無くし方』(日本経済新聞出版)から一部抜粋してお届けする。
【ミスをするのは能力が低いから?】
「発注したつもりが実際は発注しておらず商品が欠品した」
「指さし確認をしたにもかかわらず、誤った状態のまま作業が進んでしまった」
「顧客データの入った書類を紛失した」
ちょっとしたミスが大きな事故につながる、顧客からの信頼を失うことになる。
経営者、管理職、リーダーであれば、身に染みてご存じのことでしょう。
ましてや、今はSNSで瞬時に情報が拡散する時代。
1つのミスに起因する事故が、組織の根幹を揺るがすことになりかねません。
そして、経営層やリーダーはよくこうおっしゃるのです。
「うちの会社は優秀なやつが少ないから、ミスが多いんだ」
「ミスをしない『できる人材』が来てくれたら、うれしいん
だけど」
ミスや事故が発生する、しないは、一人ひとりの能力・性格・心構えの問題だという見方です。
その見方に立って、
「ミスをしてはいけない。ミスをするとこんな大変なことになる」
「事故を起こさないためには、こんな心構えでいなければならない」
と、部下に意識を徹底するよう諭します。
しかし、相手の心構えや姿勢、意識に訴えかける「内面にフォーカスするマネジメント」は、「ミス・事故を無くすマネジメント」ということはできません。
これは、私が推奨する「組織行動セーフティマネジメント=BBS(Behavior Based Safety)」の考え方です。
組織行動セーフティマネジメントとは、行動分析学をベースとした行動科学マネジメントに基づく危機管理(リスクマネジメント)の手法で、「いつ・誰が・誰に対して・どこでやっても」同じような効果が出る、高い再現性が認められるものです。
●人間は「メリットのある行動」を選択する
なぜ、注意をしても、マニュアルがあっても、ミスが生まれるか。
その理由は「人間の行動原理」にあります。
[人間の行動原理]
人間は「結果にメリットのある行動」を選択する。
「正しいやり方」を指導されても、マニュアルやチェックリストが存在しても、ミスが無くならず、組織が危険をはらみ続けるのは、人間のこうした行動原理がそれらに勝るからにほかなりません。
これをよく理解した上で、ミスや事故を無くす方法を考えなくては、ミスや事故が無くなることは決してないのです。
・マネジャーやリーダーがフォーカスすべきなのは人間の行動原理であり、そこから発生する具体的な「行動」。
・ミスや事故を防止するために、相手の「行動」をコントロールする必要がある。
そのために、まず知っておかなければならないのが、相手の行動の背景にあるもの、すなわちミスが生まれる背景です。
【上司の常識は部下の非常識】
「指示が曖昧で、どう行動すればいいかわからない」
実は、これが職場でミスや事故が発生する、もっとも大きな背景の1つです。
たとえば、こんな話があります。
あるホテルの宴会担当部署が、その日に行われる宴会の準備をしていました。
その際、年配のベテラン社員が20代の新人社員に、こう指示を出しました。
「何本か、瓶ビールの栓を抜いて準備しておくように」
この指示のどこに曖昧さがあるか、おわかりですか。
「何本か」という言い方が、まず曖昧です。
「準備をしておく」というのも、どう準備すればいいのかわかりません。
テーブルの上に並べておくのか、それともケースに入れておけばいいのか。
「そんなことは自分で判断するべきだ」という意見もあるでしょうが、ミスの無い行動をさせるには、相手の判断や考えに任せるわけにはいきません。
ミスや事故を無くし、人間の行動原理に合った仕組みをつくるためには、何よりも曖昧さを排除し、具体性のある言葉を使うことが重要です。
実は、この指示には、ミスの原因となる最大の曖昧さがあります。
それは「栓を抜く」という言葉です。
「そんなことは当たり前だろう」と思った方は、栓抜きを使って瓶の栓を抜くことを知っている方です。
ところが今の20代の若者には、瓶の栓を抜くという行動をしたことがない人が大勢います。
それどころか、彼ら彼女らは「栓抜き」の存在も、その使い方も知らないことが多いのです。
●多くのミスは「曖昧な指示」から生まれる
「栓抜きを使って瓶の栓を抜く」ことを知らない人にとって、「栓を抜いておいて」という指示はきわめて具体性のないものになります。
1つの言葉を解釈するとき、人は自分の過去の経験や知識にひもづけようとします。
だからこそ、経験値も知識量も違う相手に対して言葉を伝えるときには注意が必要です。
結局、栓を抜くことを知らなかった新人社員は、ビール瓶の栓を力ずくで開けようとし、手をケガしてしまいました。
これは、あるホテルで起こった実話です。
もちろん経験値、知識量は年配層が多く持っていて、若年層が少ないという図式ではありません。
たとえば、若手社員が「ミーティングの資料はグーグルドキュメントにアップしてありますので、そちらをご覧ください」と伝えても、グーグルドキュメントの存在を知らない、利用した経験もない年配層には、何のことかわかりません。
こうした曖昧な言葉から、「しっかり報告をしろ」「いや、レポートを上げたじゃないですか」というトラブル(事故)も発生するわけです。
【「きちんと挨拶する」も百人百様】
「曖昧な言葉」の反対は?
もちろん「具体的な言葉」です。
相手の意識ではなく、「行動そのもの」にフォーカスし、その行動をコントロールしてミスの発生を抑えるためには、指示の言葉も「行動」を示している必要があります。
これが、ここでいう「具体的な言葉」です。
では、「行動」とは何でしょう?
行動科学マネジメントには「MORSの法則(具体性の法則)」という、次の4つの要素から成り立つ「行動と呼べるものの定義」があります。
[行動の4定義]
・Measured(計測できる)=どのくらいやっているかを数えられる(数値化できる)
・Observable(観察できる)=誰が見ても、どんな行動かがわかる
・Reliable(信頼できる)=誰が見ても、同じ行動だとわかる
・Specific(明確化されている)=誰が見ても、何を、どうしているかが明確である
これら4つの要素がそろって、初めて具体的な言葉で表された「行動」となります。
逆にいえば、この4つの条件を満たしていないものは「行動」ではないということです。
「売上目標を達成する」
「朝早くから業務に取り組む」
「残業する」
「顧客目線で考える」
「懇切丁寧に説明する」
「きちんと挨拶をする」
……。
ビジネスの現場でよく使われるこれらの言葉は、行動科学の世界においては、すべて行動と呼ぶことはできません。
たとえば、「きちんと挨拶をする」という言葉は、普段の私たちの会話のレベルで判断すると「行動」と感じられるかもしれませんが、MORSの法則に照らせば、行動とは呼べません。
何をもって「きちんと」なのかが、明確な判断基準のない、主観的なものだからです。
「笑顔をつくり」
「5メートル先の相手にも聞こえるような声で」
「『おはようございます』と」
「頭を下げながらいい」
「頭を上げて再度相手の顔を見る」
もちろん、これは一例ですが、「きちんとした挨拶」をさせるには、このくらいまで具体的な指示として伝えなければ、相手によって解釈が変わってしまうのです。
●「スローガン」はその先の話
「安全意識をしっかり持つ」。
こうした「スローガン」が多用されることは、ミスを無くすマネジメントにおいて、大きな障害となっています。
私の会社のインストラクターが研修に入ったある現場では、こんな言葉をスローガンとして掲げようとしていました。
「意志のある確認を徹底する」
もうおわかりでしょう。
曖昧な言葉だけで成り立っているようなものです。
しかし、これと同じことが多くのビジネス現場で起こっているはずです。
スローガンのさらに厄介なところは、その言葉自体が「間違っていない」ということです。
しかし、いざ「意志のある確認を徹底しよう」と思っても、どんな行動を取ればいいのかがわかりません。
その結果、無意味な軋轢(あつれき)が職場内で生まれるのです。
「経験値、知識量、価値観は人それぞれ違う」
「言葉の解釈は人によって違う」
だからこそ、「行動の指示」と呼べる具体的な言葉を定めて使用しなければなりません。
スローガンを考えるのは、具体的な行動を示す言葉を定めた後の話です。
「相手の意識ではなく、行動そのものにフォーカスして、具体的な行動を示す言葉で伝える」。
これを実践することでミスの発生を抑えることができます。
まずはここから実践してみてください。
https://news.yahoo.co.jp/articles/0132f2ddd1b8708e55fb661a493e5388abebc79f
その間、ずっと奥歯に挟まっていたのは、他社の事故情報がほとんど耳に入ってこなかったことです。
そこで退職を機に、有り余る時間を有効に使うべく、全国各地でどのような事故が起きているか本ブログで情報提供することにしました。
また同時に、安全に関する最近の情報なども提供することにしました。