2022年3月9日5時0分に日本経済新聞から、下記趣旨の記事がネット配信されていた。
未曽有の巨大地震となった東日本大震災からまもなく11年。
大地震の数日前に場所や日時、規模を特定する「予知」が困難なことは大方の科学者が認めており、政府は発生確率などを示す「予測」に軸足を移している。
有力な研究者が集まる地震予知連絡会は、「地震予報の実用化」を、今後重点的に取り組む研究テーマに掲げた。
どんな予報で、実現性はあるのか。
【震度4以上、的中率は8割】
「○○県では今後1年以内に震度4以上の地震が起こりやすい」
滋賀県立大学環境科学部の小泉尚嗣教授らが提案しているのが、こんな「地震予報」だ。
1年先までに震度4以上の地震が起きる確率を都道府県ごとに計算し、70%以上なら「赤」、30~70%未満は「黄」、30%未満なら「青」と、信号の色のように予報を出す。
有力な地震学者や研究機関で構成する地震予知連絡会も、この手法を重点課題に掲げて、信頼性などをチェックしてきた。
2021年2月の会合で「ある程度確立された手法」と認め、これまでの「実験の試行」段階から一歩進め、「実用化へ踏み出す」とした。
予知連は1969年に国土地理院に設置され、日本の地震研究の進め方に影響を及ぼしてきた組織だ。
小泉教授らの予測法は、決して複雑ではない。
気象庁が公開している地震データベースをもとに、直近の3年間に一定の震度以上になった地震の回数を調べ、都道府県ごとに年平均を算出する。
例えば、震度4以上が6回起きたなら年平均で2回。これがサイコロを振るようにランダムに起きるとし、この先1年間の発生確率をはじく。
成績はおおむね良好だ。
21年の予報を検証すると、事前に「赤予報」が出ていたのは18都道県。
実際、同年10月に東京23区で10年ぶりに震度5強の地震が起きるなど、震度4以上は17都道県で発生し、的中率は94%だった。
同じ手法を15~20年に当てはめると、平均の的中率は77%だった。
「予測がいくつ当たったか」に加え、「起きた地震のうち、いくつを予測できていたか」も、信頼性の評価で見落とせない指標だ。
これを「予知率」として調べると、21年は53%。 15~20年の平均も60%だった。
東日本大震災の影響を除くため、01~10年の地震データをもとに予報を出した場合も、的中率、予知率は同様の傾向になった。
小泉教授は、
「活断層や海溝で起きる地震は数百年~千年に一度と稀(まれ)で、これらの予測は難しい。
一方で、直近3~10年のデータをもとにすると、地域ごとに通常の地震活動を把握でき、この先1年の予報をしやすい。
地震予測がすべて困難というわけではない」
と話す。
予知連も、この手法を「地域の地震活動をよく映している」とし、5月をめどに作業部会を設けて信頼性の検証や実用化の方法を探る考えだ。
【政府の「地震動予測地図」に批判も】
予知連が新たな予測に挑んでいるのは、「予知が困難なことは確かだが、地震が起きる仕組みの解明や予測の研究は進歩している。日本列島の地震活動の性質を理解し、社会に伝えるべきことを伝えるのは予知連の重要な役割」(予知連会長の山岡耕春・名古屋大教授)との思いがある。
「SNS(交流サイト)が普及し、地震のたびに様々な発信元から怪しい『予知情報』が飛び交い、社会を混乱させかねない状況になっている」と危機感を募らせる研究者もいる。
政府の地震調査委員会も「長期予測」を公表しているが、信頼性や有効性をめぐって評価は割れている。
調査委は1995年の阪神大震災を受けて発足後、「今後30年間に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率」などを示した「全国地震動予測地図」を公表している。
だが、04年の新潟県中越、08年の岩手・宮城内陸、11年の東日本大震災などは、確率が必ずしも高くない地域で起きた。
このため、「ハザードマップではなくハズレ(外れ)マップだ」(東京大学名誉教授のロバート・ゲラー氏)といった批判もある。
調査委は改定のたびに新たな地震データを加えているが、手法自体の大きな見直しはなく、自治体などの防災対策にどこまで役立ったかもはっきりしない。
【地震活動の「定常レベル」つかむ】
一方で、予測の研究は進展もみられる。
ひとつが、統計数理研究所の尾形良彦名誉教授が考案した「ETAS(イータス)モデル」と呼ばれる手法で、世界の研究者からも注目を集める。
地震は地域によって「常時活動」レベルが異なり、活発な地域とそうでない地域がある。
他方、大きな地震の後に余震が続いたり、群発地震が起きたりする。
統計理論に基づき、これら2つの性質を組み込んだモデルで、地域ごとの地震の特徴や長期の予測に有効とされる。
尾形名誉教授は、1926~95年に起きたマグニチュード(M)4以上の内陸地震の記録から日本列島の「常時活動」レベルを推定。
1996年以降に起きたM6以上の地震の多くは活動レベルが高い地域で発生しており、モデルの確からしさが裏付けられた。
「1944年の昭和東南海地震の1カ月後、M6級の三河地震が内陸で起きたように、海の地震が内陸地震に連鎖することも説明できる」と話す。
とはいえ、最新の研究成果を駆使しても、南海トラフ地震や日本海溝・千島海溝の巨大地震、首都直下地震の予測となると、なおも不確実さが大きい。
西日本の太平洋沿岸に延びる南海トラフでは、巨大地震の前に周辺のプレート(巨大な岩板)がゆっくり滑り、人が感じないほどの「スロー地震」が起きる可能性がある。
だが、スロー地震が常に巨大地震につながるとは限らず、この地震を発見した小原一成・東大地震研究所教授も、「現段階では(前兆となる)異常な揺れかどうか判断するのは難しい」と話す。
政府は、南海トラフの一部が震源になる東海地震だけは「予知可能」としてきたが、2017年に撤回した。
東海地震だけを特別扱いする科学的根拠はないからだ。
代わりに、ゆっくり滑りやM7以上の地震が起きれば「臨時情報」を出すことにしたが、科学的な基準ははっきりしない。
東北地方から北海道の太平洋沖に延びる日本海溝・千島海溝で想定される巨大地震も全貌がよく分かっておらず、研究者は「確度の高い予測は困難」と口をそろえる。
【不確実さにどう向き合うか】
地震予報を唱える小泉教授は、「予報の目的は、どの程度の地震なら起きて当たり前という、いわば地震の相場観を市民に理解してもらうこと。予知とは根本的に異なる」と話す。
気象庁の公開データベースを使うので、高校生らが自分の住む地域の確率を計算でき、防災学習にも活用できるという。
ただ、それでも社会がどう受け止めるか、課題が残る。
予報の代表ともいえる天気予報は、膨大な観測データを集め、それらと天候との因果関係を示す物理モデルから予報する。
一方で、地震予報は物理モデルよりも統計に頼る部分が大きく、天気予報とはだいぶ性格が違う。
降水確率を見て傘を持つかどうかの判断は人によって異なるが、地震予報がどんな防災行動につながるかはもっと読みにくい。
「地震の現象はきわめて稀なため、そもそも天気予報と同じレベルの予測は困難」(東北大の松沢暢教授)との指摘もある。
研究者が最新の成果を社会に発信することは大事だが、地震学は何ができ、何ができないか、研究の実力を適切に伝え、予測の不確かさと合わせて発信することが欠かせない。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD027YN0S2A300C2000000/?n_cid=NMAIL007_20220309_A&unlock=1
その間、ずっと奥歯に挟まっていたのは、他社の事故情報がほとんど耳に入ってこなかったことです。
そこで退職を機に、有り余る時間を有効に使うべく、全国各地でどのような事故が起きているか本ブログで情報提供することにしました。
また同時に、安全に関する最近の情報なども提供することにしました。