2018年5月15日6時30分に日本経済新聞から、下記趣旨の記事がネット配信されていた。
人間のけがや病気が自然に治癒するように、使用している製品や構造物に生じた劣化が、人の手を加えなくても勝手に直ってしまう・・・。
そんな夢の機能を持つ材料が「自己治癒(修復)材」だ。
材料自身に含まれる成分や事前に仕込んでおいた成分などを基にして、ひび割れなどの損傷を修復する性能を持つ。
既に、高分子材料や金属材料など、様々な領域で研究や開発が進められている。
【2030年に30兆円市場】
安倍政権が2013年に掲げた「日本再興戦略」には、「自己修復材料などのインフラ長寿命化に貢献する新材料の研究開発を推進する」と明記された。
自己修復材料などの世界市場が30年に30兆円に達するとのロードマップも掲げている。
追い風を受けて、インフラの主要な建材であるコンクリートの自己治癒能力へ関心が高まっている。
コンクリートは強度に優れ、加工もしやすい半面、ひび割れやすいという弱点を持っているためだ。
コンクリートを自己治癒できれば、長寿命化に貢献するほか、維持管理の合理化につながる。
【休眠バクテリアを活性化】
自己治癒機能をバクテリアで実現するコンクリートの研究開発で最も進んでいるのが、オランダのデルフト工科大学といえる。
同大学のヘンドリック・ヨンカース准教授が率いる研究グループは、バクテリアを利用して、コンクリートのひび割れを自動的に修復する技術を開発した。
同氏は15年、欧州特許庁の欧州発明家賞にノミネートされた。
ヨンカース氏が着目したのはバシラス属のバクテリアだ。
この微生物は乾燥すると胞子状の殻をまとい、休眠状態で200年も生存することができる。
pH(ペーハー)が13程度と強いアルカリ性のコンクリートの中でも、死滅することはない。
乾燥させたバクテリアを、栄養分である乳酸カルシウムと一緒に圧縮・固化。
さらに、生分解性プラスチックの殻で覆って、直径が数mmのカプセル状にする。
このカプセルを、生コンクリートに所定の量で配合する。
【ひび割れを加速度的に修復していく】
ひび割れが生じると、割れ目から浸透した水と酸素が休眠していたバクテリアを活性化する。
バクテリアは、栄養分である乳酸カルシウムを分解し、二酸化炭素を排出。
結果として、セメント原料となる石灰石の主成分である炭酸カルシウムが生成され、ひび割れを埋める物質となる。
炭酸カルシウムが生成される過程で発生する水は、コンクリートの中に残っていたセメント成分と反応して水酸化カルシウムとなる。
これが二酸化炭素と反応して、さらに炭酸カルシウムとなり、ひび割れを加速度的に修復していく。
一連の化学反応が、コンクリートが自己治癒するメカニズムだ。
ヨンカース氏の研究グループは、実験設備の中で、最大1mm幅のひび割れを約2カ月で修復できたことを確認している。
使用しているバクテリアは欧州の安全基準をクリアしており、「人への感染がない添加材」に区分されているものだ。
ひび割れは補修できるが、コンクリートの強度を回復させることは保証していない。
だが、ひび割れを埋めて、さらなる水の浸入を防ぐだけでも、メリットは十分大きい。
鉄筋コンクリートの構造物では、ひび割れから水などが浸透して内部の鉄筋に達すると腐食を招く。
鉄の強度が落ちれば、コンクリート構造物の安全性が下がってしまう。
【日本では18年4月に販売開始】
バクテリアを使った自己治癒コンクリートは、欧州では先行して商品化されている。
ヨンカース氏らは、関連する特許を取得後、14年にバイオベンチャー企業、バジリスク・コントラクティングBVを立ち上げ、製品の販売を開始した。
地元のオランダだけでなく、ドイツやベルギーでも販売実績がある。
日本では、コンクリートの専門業者である會澤高圧コンクリート(北海道苫小牧市)がバジリスクと提携。
日本における独占販売権を獲得したと17年4月に発表した。
日本と欧州では、コンクリートに混ぜる材料が異なるため、日本に最適な配合条件を検討している。
まずは塗布型の補修材について、18年4月から、日本で販売を始めた。
価格は当初、通常の生コンの2倍程度となる見込みだ。
バクテリアなどの原材料を欧州から輸入するため割高となるが、将来はバクテリアの増殖も日本国内で実施して、コストダウンを目指すという。
【イースト菌を使った手法も】
微生物を使ってコンクリートを補修する技術は、日本でも研究開発が進んでいる。
愛媛大学大学院理工学研究科の氏家勲教授と同講師の河合慶有氏らは、微生物を含んだグラウト(隙間を埋めるための流動性を持たせた建材)で、コンクリート構造物に生じたひび割れを補修する技術開発に取り組んでいる。
使用する微生物は、イースト菌や納豆菌といった、食品にも含まれるもの。
最大のメリットは、大量に使用して充填材が周囲に漏出しても、環境への負荷がほとんどないことだ。
コンクリート構造物のひび割れ部分に、微生物とひび割れ修復に必要なカルシウム源、その微生物の栄養源を混ぜたグラウトを注入するという、シンプルな手法を用いる。
ひび割れを修復するプロセスは、デルフト工科大学とほぼ同じだ。
愛媛大学は、およそ0.2mm幅のひび割れを持つコンクリート供試体を用いて、グラウト注入前後の透水性能を確認する試験を実施している。
現時点では、十分な量の炭酸カルシウムを生成するのに時間がかかり過ぎるという課題がある。
実用化するためには、生成スピードを大幅に速めた微生物の探索やグラウト性状の改善などが必要となる。
それでも、建設現場のニーズは高い。
構造物に散布しておくだけで、ひび割れを補修するような工法が実現できるかもしれないからだ。
バクテリアを使った自己治癒コンクリートは、バクテリアなどの添加材を加える分だけコストは高くなる。
だが、ひび割れが起こるたびに補修を繰り返す場合と比べて、ライフサイクルコストを抑制できる。
出典
『微生物がコンクリートを勝手に修復 いよいよ市場に 驚異の新材料 自己治癒材(上)』
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO29436240W8A410C1000000/?n_cid=NMAIL007
その間、ずっと奥歯に挟まっていたのは、他社の事故情報がほとんど耳に入ってこなかったことです。
そこで退職を機に、有り余る時間を有効に使うべく、全国各地でどのような事故が起きているか本ブログで情報提供することにしました。
また同時に、安全に関する最近の情報なども提供することにしました。