2017年6月21日11時54分に朝日新聞から、下記趣旨の記事がネット配信されていた。
スポーツの事故で重大な障害を負った少年の暮らしは壮絶だった。
2014年3月、沖縄県豊見城(とみぐすく)市にある町道場の柔道教室での練習中に急性硬膜下血腫となった男子の母親は、「指導者には、子どもを守る知識を備える責任がある」と、再発防止を訴える。
大阪府岸和田市に住む中学1年のH君(13)は、車いす生活で特別支援学校に通う。
脳を損傷し、左手が動かず、左目の視野が極めて狭い。
リハビリを通じ、会話はできるようになったが、歩行は短い距離に限られ、食事も介助が必要だ。
2年前からてんかんの発作が頻発。
倒れると自力で起き上がれず、母親(32)は目が離せない。
母親は事故後、H君の将来のことで意見が食い違った夫と離婚して岸和田市の実家に戻り、両親の助けを得ながら、H君と長女(6)、次男(4)を育てる。
「息子は、生きてはいるけど、あったはずのものがすべてなくなった。半分、殺されたと思っています」。
世話に追われ、次男が歩けるようになったことを、しばらく知らなかった。
事故は、1分間交互に相手を投げ続ける稽古で起こった。
小学3年のH君が組んだのは、5年生の男子。
体重差は大きくなかったが、柔道を始めて半年だったH君とは、経験、実力とも差があった。
母親が道場長から受けた説明によると、1本目の稽古が終わり、H君が泣いた。
「頭を打ったのか」と指導者が聞くと、H君が「痛い」とうなずいたものの、相手の道着をつかんで練習を続ける意思を示したために再開。
2本目、投げられた後に自分が投げる番になると、ふらふらと歩き出し、倒れた。
H君が受けた技は、大外刈り。
過去の事故事例が多いことから、全日本柔道連盟が、受け身の能力などを慎重に見極めて受けさせるよう、指導者に注意を促している技だった。
母親は病院の医師から、H君の頭には打撲の痕がなかったと聞いた。
「頭を打ったのではなく、強く揺さぶられたことで静脈が破れる加速損傷が起きて急性硬膜下血腫を発症し、さらに再び衝撃を受けて悪化したのだろう」と説明された。
道場長は朝日新聞の取材に、「(H君は)大外刈りの受け身はしっかりできていたが、実力差のある組み合わせにしたことを反省している。事故後は、学年と柔道歴を考慮して、慎重に組ませている。全柔連の指導者講習会に出るようにしている」と話した。
鏡に映る自らの姿を見て、H君が涙を流していたことがあった。
母親が思わず「一緒に死のうか」と言ったこともある。
柔道では、H君の事故後の15、16年にも、全国の中高の部活動中の事故で計3人が亡くなり、計3人が意識不明になっている。
母親は言う。「このままでは、何のためにこの子がけがをしたのか、わからない。末端の指導者が知識を持ち、教訓として生かしてもらいたい」
柔道の重大事故は頭部外傷が多い。
2003~15年に全柔連に報告された頭部の重大事故は44件。そのうち、19件が死亡している。
全柔連が分析した頭部重大事故の特徴は以下の4点。
①受け身が未熟な初心者に多い
②組んだ相手との体力差、体格差が大きい場合に発生しやすい
③回転で頭が揺さぶられて脳損傷が起きる
④事故の前に頭痛を訴えている事例がある
H君の事故は、このすべてが当てはまる。
全柔連は近年、ホームページや冊子で事故の特徴の周知を図り、「初心者の時期の指導を安全に行うことで重大事故をゼロにできる」と訴えている。
また、受傷時にかけられた技をみると、03~14年の頭部外傷の重大事故で技が判明している29件のうち、大外刈りが15件で最も多かった。
全柔連は、「初心者に大外刈りをかけて投げるのは極めて危険」と、大外刈りを受ける力量があるか、受け身の習熟についての慎重な見極めも求めている。
重大事故総合対策委員会の野瀬委員長は、「事故にあわれた方やご家族にとって『事故は終わっていない』という感を強くしている。今の目的は一つ。重大事故をゼロにして、安全、安心な柔道を確立すること。現場の指導者の中には冊子を読まない人も多いようなので、さらにわかりやすい冊子が作れるかを検討中」と話す。
全柔連には、今年4月にも、経験者の高校1年男子が後頭部を打ち、急性硬膜下血腫で緊急手術をしたという報告が入っている。
出典
『大外刈りで脳損傷、車いすの中1 母「一緒に死のうか」』
http://www.asahi.com/articles/ASK6D41T8K6DUTQP00J.html
その間、ずっと奥歯に挟まっていたのは、他社の事故情報がほとんど耳に入ってこなかったことです。
そこで退職を機に、有り余る時間を有効に使うべく、全国各地でどのような事故が起きているか本ブログで情報提供することにしました。
また同時に、安全に関する最近の情報なども提供することにしました。