2013年7月18日付で毎日新聞東京版から、表記タイトルで以下の記事がネット配信されていた。
◇注意喚起策、徹底追求を
暮らしの中で起きた事故の原因を調べ、再発防止を目指す消費者庁の「消費者安全調査委員会」(消費者事故調、委員長・畑村洋太郎東大名誉教授)が先月、昨年10月の発足後初めて、検討案件の中間報告となる「評価書」を公表した。
他省が出した事故調査結果を「不十分」とし、再調査するという。
だが評価書を見て私は「これで効果ある再発防止策につながるのか」と疑問を持った。
対象の事故は、2009年4月に東京都港区のビルで起きたエスカレーターでの転落死亡事故だ。
2階の飲食店を出た男性会社員(当時45歳)が、後ろ向きに歩いた先で下りエスカレーターの手すりに尻が触れ、体が持ち上げられ、吹き抜けから約9メートル下の1階床に落ちて死亡した。
エスカレーターで重大事故があれば、国土交通省の「昇降機等事故調査部会」が調べることになっている。
調査部会は昨年、「エスカレーターの構造や管理が原因で起きたのではない」と結論づけた。
主な根拠となったのは、建築基準法だ。
◇国交省の結論を「不十分」と指摘
その一度出された結論を、消費者事故調は見直した。そして、現行の法はエスカレーター周辺の安全対策への規定が足りず、その法に基づいた国交省調査部会の調査も不十分とした。
そこで、事故調が自ら調査をし直すという。
事故原因を洗い出し、そのうち「なぜ体が持ち上がったか」「手すりへの接触予防・転落防止対策が十分だったか」という項目を追加で調べる。
国交省が「問題なし」としたエスカレーターの構造や管理にまつわるテーマに、切り込もうというわけだ。
国交省によると「乗り場に接触予防柵を付けよ」とか「転落防止対策をせよ」とする法規制はない。
だから専門家から「事故調は、法規制の周辺領域を見直そうとしている」という声も上がる。
だが、国交省によれば規制がないのには理由があり、例えば、乗り場に柵を作れば、かえってエスカレーターと柵の間に挟み込まれる事故が起こりうるという。
法は、さまざまな要素を考慮しつつも過剰な規制とならないよう「最低基準」を定める。
それ以上の対策は、業界が自主ルールを作ったり、企業が個別に対応したりすることになる。
◇ルール改正の根拠示せるか
建築基準法等に対して「不十分」と指摘するからには、言うまでもなく「根拠」が必要だ。
ルールは常に完全なわけではなく、時代や環境の変化で合わなくなることもある。
社会が納得できる根拠をもって「現在のルールは不十分」と指摘するならば、追加調査をする意味は大いにある。
ところが評価書は「今後、調べてみる」と言っているだけなのだ。8カ月もかけたのに、何の根拠も示せなかったのが実情だ。果たして今後、強力な根拠を見つけられるのだろうか。
さらに、残念だったのは、評価書が利用者側への対策を打とうとしていないことだ。
実は、今回の報告では「被害者の行動と注意喚起策の問題」もテーマに挙がっていた。ところが調査項目を絞り込む際に削られた。
私は、このテーマこそ、事故調が取り組むべきものだと思う。
なぜなら、建築基準法など国交省がよりどころとする基準は「正常な使い方」を前提とする。このため、利用者が「誤った使い方」をした時の想定と対策に弱点がある。
事故防止を考える時、ヒューマンエラーを考慮することは当然だ。だから「より広い観点からの検証」を掲げる事故調が、エスカレーターがどう使われているかを分析すべきだ。そのうえで、消費者庁本体が誤った使い方の危険性を利用者に伝えるよう提言する必要がある。
利用者へ直接呼びかけるコミュニケーション方法は、消費者庁の得意とする領域だ。
国交省の担当者は、使い方への注意喚起について「自分たちの不得意な領域だ」と認めており、同庁にこそ、そのノウハウがある。
多くの利用者が「エスカレーターでは、手すりに乗り上げたり、転落したりすることがあるので気を付けよう」と認識するような啓発や、現場の注意喚起のあり方とは何かを、徹底的に追求してもらうべきだ。
事故調は今後、追加調査を経て再発防止策を盛り込んだ提言を出す。
利用者とのコミュニケーションという視点を前面に打ち出し、消費者庁の強みを生かせる提言ならば、消費者事故調は、実行をともなった頼れる機関になると思う。
出典URL
http://mainichi.jp/select/news/20130718ddm005070007000c.html
(ブログ者コメント)
産業現場にも大いに通じるところがあると感じた記事につき、紹介する。
その間、ずっと奥歯に挟まっていたのは、他社の事故情報がほとんど耳に入ってこなかったことです。
そこで退職を機に、有り余る時間を有効に使うべく、全国各地でどのような事故が起きているか本ブログで情報提供することにしました。
また同時に、安全に関する最近の情報なども提供することにしました。