2021年6月12日付で毎日新聞東京版から、下記趣旨の記事が事例に関するイラストや写真付きでネット配信されていた。
子どもの首や指などに髪の毛や糸などが巻き付き、傷が付く事故が国内外で確認されている。
国内では、法医学の世界や児童福祉の現場などでも、あまり知られておらず、巻き付きの可能性があったものの、虐待が疑われて児童相談所が子どもを一時保護したケースもある。
専門家は「スマートフォンの充電器のコードなどでも傷ができるので、注意が必要だ」と警鐘を鳴らす。
首や指などに髪の毛や糸などが巻き付き、締め付けられて傷がつくことは「ヘアターニケット症候群」と呼ばれる。
血流が止まることで組織が壊死(えし)することもある。
英医学誌ランセットに1978年、掲載された英リバプール病院の論文によると、母親の髪が隣で寝ていた男児の首に巻き付き、顔の血色が悪化したという。
2005年には米国の研究チームが専門誌で、毛髪の強度や傷の特徴などを報告。
直径が約1センチの髪の毛の束では6・3~15・2キロの重さに耐え、気道を締めるのに必要な力をかけることもできた。
国内では、19年に東京都立小児総合医療センターの研究チームが、救急を受診したヘアターニケット8例を日本小児科学会雑誌で公表。
乳児の足の指に髪の毛が絡まり、指の先が虚血状態になったケースがあった。
ヘアターニケットは、虐待による傷との区別の難しさが指摘される。
米国では、虐待を疑われた母親が懲役30年の判決を受けた後に、髪の毛による事故として無罪になったケースがある。
国内では19年、堺市の男児(当時2歳7カ月)の首についた線状の傷を巡り、法医学者の間でも虐待か事故か見解が分かれる事例があった。
堺市子ども相談所(児童相談所)が虐待を疑って男児を一時保護。
大阪家裁堺支部に施設などへの入所措置を申し立てたが、その後、取り下げた。
男児の両親の弁護士を通じ、家裁に意見書を提出した大阪医科薬科大法医学教室の鈴木広一名誉教授は、隣で寝ていた母親の髪の毛の先が男児の着衣のファスナーや寝具などに引っかかり、男児が寝返りすることで首に巻き付いた可能性を指摘。
「保護者や児相関係者は、髪の毛やコードが偶然巻き付いても、首に傷ができるということを把握しておく必要がある」と話す。
【堺の児相、入所取り下げ】
堺市の男児のケースを巡っては、鈴木名誉教授が、両親の証言を基に再現実験を実施し、髪の毛巻き付きの可能性を検証した。
男児の両親によると、2019年12月27日未明、男児が寝ている時に突然泣き声を上げた。
父親が手探りで調べると、隣で寝ていた母親の髪が首に絡まっていた。
髪の毛をほどくと、男児は再び眠った。
両親は同日朝、男児の首に赤紫色の線状の傷(首の全周25センチに対し長さ16センチ、幅0・3センチ)があることに気づいた。
両親は経緯を保育園に説明したうえで、男児を登園させた。
傷の大きさを不審に思った保育園側が堺市子ども相談所に連絡し、児相は虐待の可能性があるとして、男児を一時保護。
その後、児相は家裁に入所措置を申し立てた。
傷について、両親は一貫して「母親の髪の毛が首に巻き付いた」と主張。
大阪府警による現場検証もあったが、事件化しなかった。
家裁の審判で、児相の委託を受けた法医学者は、「母親の髪の長さ(頭頂部から約53センチ)、損傷の状態からも、髪の毛が巻き付いて生じたとは考えがたい」とする意見書を出した。
一方、鈴木名誉教授によると、ひもなどで絞められていれば傷は首のほぼ全周につく可能性が高いが、男児の傷は首の左側だけにあった。ひもで今回のような傷がつくとすれば、ひもの両端を持ってゴシゴシとこする必要があり、「故意の行為としては不自然だ」と指摘。
再現実験から、母親の髪の長さは男児の首に巻き付くには十分で、傷は「髪の毛が巻き付いたことによってできた」と結論づけた。
この事案では、最終的に家裁が和解的な解決を促し、児相が20年7月、申し立てを取り下げた。
男児は同8月以降、児相の指導の下、段階を踏んで自宅に帰るプログラムに沿って生活し、一時保護から約1年後に両親の元に戻った。
児童虐待問題に詳しい馬渕泰至弁護士によると、親が虐待を認めて入所に同意したり、虐待を認めなくても一時保護延長に同意したりすることなく、児相が申し立てを取り下げるケースはまれだという。
両親の代理人の三村雅一弁護士は、「ヘアターニケットと明確に認定されたわけではないが、家裁が『虐待ではない』という両親の主張を尊重してくれたと考えている。児相は、当初の見立てと異なる見方が出たときに、早期に再検討する姿勢が必要だ」としている。
男児の父親は、「児相は『虐待』と決めつけ、専門家の鑑定にも、聞く耳を持ってくれなかった」と話す。
堺市は外部有識者による部会を設け、当時の対応の妥当性について内部調査した結果を検証しており、今月下旬にも結果をまとめる方針だ。
堺市子ども相談所は毎日新聞の取材に対し、「個別の案件についてはお答えしかねる」と回答している。
■ことば
へアターニケット症候群
毛や糸などが手指などに絡まり、締め付けられて起こる状態。
血流が止まることで組織の壊死(えし)が起こることもある。
乳児が泣きやまない一因となっていることもある。
ターニケットは英語で止血帯の意味。
https://mainichi.jp/articles/20210612/ddm/041/040/072000c
(ブログ者コメント)
関連情報調査結果、堺市の事例については、下記報道が詳しかった。(本文転載は省略)
(2021年2月11日 関西テレビ)
https://www.ktv.jp/news/feature/20210211/
その間、ずっと奥歯に挟まっていたのは、他社の事故情報がほとんど耳に入ってこなかったことです。
そこで退職を機に、有り余る時間を有効に使うべく、全国各地でどのような事故が起きているか本ブログで情報提供することにしました。
また同時に、安全に関する最近の情報なども提供することにしました。